2008年4月アーカイブ

沖 ななも(著),土田 ヒロミ(写真)「神の木民の木―巨樹巡行」 (日本放送出版協会 2008/03)

本書は、「NHK歌壇」「NHK短歌」に「樹木を詠う」として掲載されたものを加筆、再構成して編まれたものです。
全国の巨樹を訪ね歩いて、詩情豊かに紹介しています。沖ななも氏の歌と土田ヒロミ氏の写真が、巨樹の魅力を引き立ててくれます。

三春の滝桜のように全国的に有名となった樹木もありますが、多くは初めて目にする巨樹です。
身近なところでは、「苦竹の大公孫樹」(仙台市)、「称名寺の椎の木」(亘理町)、「羽黒山の爺杉」、「山上の大桑」(米沢市)などが紹介されています。

沖氏は「木の魅力とは何だろう。・・・人智の及ぶべくもない悠久がここに在る。畏敬というほかはない」(はじめにより)と述べていますが、人の何倍もの時間を生き抜いてきた堂々とした存在感こそが、巨樹の魅力なのかもしれません。
また、「杉は、千年もの間、一言も発せず、黙し揺らぐことはない」(p42)というように、静かに立ち続ける姿も日本人の共感を呼ぶのかもしれません。

巨樹を巡る紀行文として、実用的なガイドブックとして、そして写真集としても楽しめる本です。

 

筒井 彰彦 (著) 「7つの要素で整理する業務プロセス」 (翔泳社 2006/12)

業務改善・改革のためには、現状の業務の流れやつながりをフローチャートで可視化し、分析することが不可欠です。

本書は、このフローチャートの書き方について、ポイントを押さえた解説と、具体例の演習を通じて学ぶものです。

タイトルにある「7つの要素」とは、組織、システム、作業、入出力、順序、判断・合流、コメントで、これらの要素で業務を整理し、可視化・文書化する方法が解説されています。
販売、購買、返品、決済、生産計画、システム保守、Webページ更新、製品サポートの8つの演習を学ぶことにより、一般的な業務プロセスについて、フローチャートで表現する力を身につけることができると思います。
良いフローチャートは、あまり多くのシンボルを使わず、誰が見ても分かりやすく書くことが原則ですが、本書の例もこの原則どおり非常にわかりやすく記述されています。

No.186 「経済学の教養」

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根井 雅弘(著)「経済学の教養」(NTT出版ライブラリーレゾナント 2006/10)

アダム・スミス、マルクス、マーシャル、ケインズ、シュンペーターらの経済学を、社会人が教養として身につけるための「経済学勉強会」が開催され、その原稿として書き下ろされたものです。
この勉強会は、かつて都留重人(1912-2006)氏が開催した「背広ゼミ」に倣ったものであるとのこと。

一般的な経済学の教養書と異なるのは、単なる経済理論の紹介に終わることなく、著者の信条でもある「歴史的意識」をもって学ぶという視点から書かれていることです。
「歴史的意識」とは、あたかもその経済学者がそばにいて、対話をするように意識しながら、深く考えて読み解くという態度です。

それは、過去の経済学者の理論や、問題意識、解決できなかった課題などを、現代の視点から意味づけ、発展させることにつながります。学問の継承はこのようにしてなされるのでしょう。

経済学を学ぶうえで重要な知識についてのコラムが挿入されていますが、この内容がかなり充実しています。

なお、講義をした後で書き起こしたものではないことに、著者の良心を感じます。
書き起こしを本にすると、どうしても冗長で、論理展開が緩いものになりがちです。
経済学の教養を、正しく伝えたいという著者の意識のあらわれでしょう。

福田 智宏(著)「ビジネスに使える「文学の言葉」―現場を潤す古今の名言集」(ダイヤモンド社 2006/12)

古今東西の名作のなかから、ビジネスの現場で活用できる言葉を抜き出し、解説を加えたものです。
同様の名言集や箴言集は数多く出版されていますが、本書で紹介されている作品には、名作として知られる純文学作品が目立ちます。

定番となっている「論語」や「兵法」など中国古典からの出典もありますが、「万葉集」、「古今和歌集」などの詩歌や、「五重塔」、「不如帰」、「生まれ出づる悩み」などの近代文学、「ハムレット」、「ガリヴァ旅行記」、「シャーロックホームズの冒険」などの外国文学も数多く紹介されています。
このような作品を素材に選んで、ビジネスの局面に適用しようという試みに興味を覚えます。

「けふなり。けふなり。きのふありて何かせむ。あすも、あさても空しき名のみ、あだなる声のみ(「うたかたの記」森鴎外)」
「人間は、時として、充たされるか充たされないか、わからない欲望のために、一生を捧げてしまう。その愚を哂う者は、畢竟、人生に対する路傍の人にすぎない(「芋粥」芥川龍之介)」

副題が示すように、「現場を潤す」という効果を狙って活用すると面白いかもしれません。
例えば、
「憶良らは 今は罷らん 子泣くらん それその母も 我を待つらんぞ(「万葉集」山上憶良)」
解説で、「気の進まぬ酒宴を断るには、この歌の力を借りるしかあるまい」と述べていますが、実際に使ったらどのような反応が返ってくるか、想像に難くないものがあります。
昨今のように、本を読まない人が多い環境では、意が伝わらないかもしれません。

 

日野原 重明 (著)「長さではない命の豊かさ」 (朝日文庫 2007/8)

百歳近い年齢で、医師として仕事の第一線に経つだけでなく、多面的な活動を続けている日野原 重明(1911-)氏のエッセイ集で、朝日新聞土曜「be」に連載の「あるがまま行く」の1、2年目をまとめたものです。

「『生み、育てる』ということ」、「『学ぶ』ということ」、「『愛する』ということ」、「『習慣を身につける』ということ」、「『働く』ということ」、「『老いる』ということ」、「『人を治す』ということ」、「『死ぬ』ということ」、これらのテーマごとに章立てされています。

テレビなどで紹介される日野原氏の人柄そのままに、やさしく語りかけるような表現で、慈愛に満ちた言葉が詰まっています。
これらの言葉の背景には、クリスチャンとして育った環境と、師と仰ぐウィリアム・オスラー医師(1849-1919)などの先人への深い尊敬の念があることが感じられます。

タイトルとなった「長さではない命の豊かさ」の項は、「死して亡びざる者は寿なり」という老子の言葉で結ばれています。

マイケル ハマー,ジェイムズ チャンピー(著),野中 郁次郎(訳)「リエンジニアリング革命―企業を根本から変える業務革新」 (日経ビジネス人文庫 2002/11)

1980年代の日本企業との競争に敗北しつつあった米国企業に対して、根本的な業務革新の必要性を説いた書です。
当時は、品質・価格・サービスにおいて日本企業の強さが注目された「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代でした。
このような日本企業に対抗するためには、ビジネス・プロセスを抜本的に改革するしかないという危機感が全編を貫いています。

「大衆市場とともに成長してきた企業にとって最も受け入れにくいのは、『顧客一人ひとりが重要である』ということである。顧客を一人失うと、その代わりはいないのである」(p41)
「企業に長期的な成功をもたらすのは商品ではなくて、商品を作るそのプロセスである。よい商品が勝利者を生むのではなく、勝利者がよい商品を作るのである」(p48)

アダム・スミス以来の伝統的な分業の原則や、テーラーシステムのような大量生産時代の原則はもはや時代後れで、「プロセス」を最重視して業務を再構築しなければならないというのが著者の主張です。

部分的な業務の改善にとどまるのではなく、「そもそもなぜそれを行うのだろうか」という、根本に戻った問いが必要であるという言葉には、いまなお説得力があります。具体的な企業の事例も豊富で、参考になります。

野口 悠紀雄 (著) 「モノづくり幻想が日本経済をダメにする―変わる世界、変わらない日本」 (ダイヤモンド社 2007/10)

刺激的なタイトルが示すように、日本経済の現状に対するかなり辛口の評論となっています。
本書は、週刊ダイヤモンドに2006年4月から2007年3月まで連載された「超整理日記」を編集し、単行本化したもので、比較的読みやすい内容となっています。

著者の、歯に衣着せぬ主張は明快です。
一例をあげると、
「八十年代にはまだ明確に意識されていなかったことだが、社会主義圏が資本主義経済に取り込まれることによって、製造業を先進国で行うことのメリットが失われたからである。特に膨大な人口を抱える中国の工業化が始まってからは、中国でできる経済活動を他国が行っても、優位性を発揮できないことが明確になった」(p10)

もちろん、製造業が不要といっているわけではなく、「コモディティ」化したものを作っても意味がないこと(IBMのパソコン事業売却がよい例)を訴えて、産業構造や企業構造、そして働く者の意識改革を提言する内容となっています。
円高・低金利については、たとえ製造業に都合がよくても、結果的に国際経済において日本が損な役回りを演じる結果になっているとのこと(円キャリートレードの例:低金利の円資金で調達し、高い収益率の外貨投資に回す)。

ITに関しては、米国に比べれば日本の電子政府はおもちゃと断じています。また、インターネットを使ったアウトソーシングの重要性についても、繰り返し主張されています。

食料自給に関する考え方など納得できない部分もありますが、「変わらない日本」の危険性を強く訴える警世の書といってよいでしょう。


 

No.181 「不都合な真実」

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アル・ゴア(著),枝廣 淳子(訳)「不都合な真実」(ランダムハウス講談社 2007/1)

アル・ゴア氏主演のドキュメンタリー映画『不都合な真実』の書籍版で、氏が世界中で行ってきた環境問題に関するスライド講演がベースになっています。

地球温暖化と気候変動の危機を強く訴える内容で、氷河の減少、ハリケーンや台風災害、アマゾンの森林破壊、海水面の上昇、人口増加などが取り上げられています。
「気候の危機に関する真実は、自分たちの暮らし方を変えなくてはならないという、『不都合な真実』なのである」
本書に対しては多くのレビューが書かれていますが、危機を誇張しすぎているという批判もあります。

地球温暖化の原因については、温室効果ガス以外にも諸説がありますが(No.166「地球温暖化は止まらない」等)、原因が何であれ、人口爆発や資源の枯渇も考えれば、このままではよくないのは確かでしょう。

掲載されたいくつかの写真のなかで、地球の美しさが目を引きます。
宇宙空間から地球を眺めた人は、例外なく価値観が変化するというのも頷けます。

興味深いのは、気候問題に取り組んだきっかけや、ゴア氏の半生を語った部分です。
子どもが6歳のとき交通事故で瀕死の重症を負い、その時の経験が人生観の転換につながったということです。

「突然、私のスケジュールをいっぱいにしていた、かつては緊急なことに思えていたものが、本当は取るに足らないものだと突然わかった。・・・いったい、自分は本当はどのように自分の時間を使いたいのだろう?本当に重要なのは何だろう?−私は自問した。・・・社会に役立つための自分の仕事の性質についても考え直した」(p70より)

ゴア氏にとって重要なものは、ひとつには家族であり、もうひとつは地球環境でした。

 

加藤 周一 (著)「日本文化における時間と空間」 (単行本 2007/03)

日本の文化に表現されてきた、日本人の時間に対する感覚、空間に対する感覚を実証的に分析し、その本質に迫った書です。

加藤周一(1919-)氏は、古事記以来の文学・絵画・建築などを読み、鑑賞し、観察することを通じて、日本文化の特質を明らかにしていきます。
中国やヨーロッパ文化との比較を交えながら、そこに見えてきた日本文化の特質は、時間としては「今」を強調し、空間としては「ここ」を重視する世界観でした。
つまり、「過去は水に流す」、「明日は明日の風が吹く」、「福は内、鬼は外」といった言葉にあらわれているように、「日本では人々が『今=ここ』に生きているように見える」ということです。

加藤氏の著作すべてに感じることですが、その知的世界の広さと深さに圧倒されます。
本書は、大量の本を読み、多くの分野の芸術を鑑賞し、世の中と関わってきた加藤氏の思想の集大成といってもよいでしょう。

考えるということは、ものごとを相互に関係づけることであるとすれば、よく考えるためには加藤氏のように多くの本を読み、世の中の事象をよく知ることが必要です。
なお、失礼な言い方かも知れませんが、90歳近い年齢にしてこれほど体系的で緻密な論考を著すことのできる力には、深い感銘を覚えます。

 

安岡 孝一+安岡 素子(著)「キーボード配列QWERTYの謎」 (エヌティティ出版 2008/03)


この文章を書いているThinkPad X31のキーボードも、もちろんQWERTY配列です。
QWERTY配列については、タイプライターの配列を模したものであることは間違いありません。
では、なぜタイプライターのキー配列がQWERTYになったのか・・・丹念に文献や資料を調査することで、その謎に迫ったのが本書です。

QWERTY配列については、「タイプライターのアームが絡まらないように、わざと速く打てない配列が工夫され、それがデファクト・スタンダードになった」というのが定説です。

しかし、本書はこの定説を否定します。
タイプライターのキー配列がQWERTYになったのは1882年8月、その時代のタイプライターにアーム機構はなく、アームを有するフロントストライク式タイプライターが発明されたのは、1891年6月であるとのこと。
つまり「アームが絡まる云々」はQWERTY配列の理由ではないのです。
このことを知るだけでも、本書を読む価値はあるでしょう。

初期のタイプライター開発に関わる人と企業の物語や、キー配列の変遷、ドボラック配列とアンチQWERTY説の真偽など、キーボードについて深く掘り下げた記述が展開されています。

考えてみると、このようなキーボードの問題は所詮英語文化圏の問題です。
日本語を入力するということに真剣に取り組んで開発され、ある程度普及したのはOASYSキーボードくらいでしょうか。TRONプロジェクトで提案されたキーボードも魅力的でした。

慣れているからもはや変えられないのかも知れませんが、人間との接点であるキーボードやディスプレイについてもっと考えてみたいものです。

No.178 「情報法入門」

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小向 太郎 (著)「情報法入門 デジタル・ネットワークの法律」 (単行本 2008/3)

インターネットの普及拡大にともない、セキュリティ、個人情報保護、著作権、ネット詐欺など、さまざまな法的な問題が注目されるようになりました。
本書はこれら情報法について、大学の講義を念頭において書かれたものです。

冒頭で著者は、情報に関する法律・制度の難しさを、次のように述べています。
「法律には、有体物からの呪縛を解かれた情報をどのように規律してよいのか分からずに、途方に暮れている面がある」

内容は、デジタル社会とインターネットの特徴や影響、情報化関連政策、通信と放送、情報に起因する法的責任、ネットワークにおける媒介者責任、個人情報保護、となっています。

これらのテーマについて、単に法律を解説したものではなく、ネット社会の進展によってどのような問題が発生し、その問題に対しどのような法律が関係するのかという視点から、課題を体系化して説明しています。

それにしても、大学で「情報法」なる講義が存在するとは・・・時代は確かに変わったのですね。

大前 孝太郎,御園 慎一郎,服部 敦(編著)「特区・地域再生のつくり方」 (単行本 2008/2)

特区(「経済改革特別区域法」)と地域再生法の制度を活かすポイントと、各地の取り組みを紹介しています。各自治体の担当者などにより、17の事例が紹介されています。

一例をあげると、
愛知県・・・車高規制緩和と仮ナンバーの特例
遠野市・・・どぶろくの復活
上勝町(徳島県)・・・有償ボランティア輸送特区
NBC(社団法人ニュービジネス協議会:長野県)・・・第3種旅行業者が企画するオプショナルツアー
神戸市・・・先端医療産業特区
荒尾市(熊本県)・・・地域ブランド商品開発(有明海の初摘み海苔の商品化、商店街ワイン「荒尾乃葡萄酒」、芋焼酎「小岱」)
豊後高田市(大分県)・・・「昭和の町」による商業と観光の振興

いずれも、地域の特性を活かした取り組みとなっています。
地域再生と活性化で成果をあげる要因として、「地域の主体性に基づく発想と実行力」の大切さが指摘されています。

そして、「地域の魅力、得意分野をもう一度ゼロベースで考えてみる」、「地域の得意分野を伸ばしながら、全国的に受け入れやすい面白みを持たせて発進することが重要」(p42)ということです。

特区と地域再生の制度の違いがわかりにくいという質問に対して、ある自治体職員が応えたという言葉が印象的です。
「要は、それぞれの地域が何をやりたいかをはっきり自覚することです。国は政府を挙げて、制度を変えてまで、地域のやりたいことを実現するという意志を示しているのです。やりたいことがはっきりしてれば、どこの制度だって使えるものを使えばいいのです」(序論p2より)
地域開発や活性化が成功するかどうかは、制度設計以上に、地域の自発的な取り組みによるところが大きいといえるでしょう。

No.176 「絵のある人生」

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安野 光雅 (著)「絵のある人生―見る楽しみ、描く喜び―」 (岩波新書 2003/9)

画家のように自由に絵を描けたら、と思うことがしばしばあります。
本書は、絵画を鑑賞したり、描いたりすることの楽しさを、一般の人向けにやさしく伝えようとしたものです。

筆者の幼少時の絵に対する思い入れから始まり、ブリューゲルが活躍した時代から、ゴッホや印象派の時代を経て、ナイーブ派やアマチュアリズムまで、代表的な画家とその作品の魅力を語っています。
画家はなぜ絵を描くのか、また絵に何らかのメッセージを込めることはできるのか、といった本質的な問いも表明されています。

画家の生涯や作品の出来を知ると、絵画とは時代とともにあるものだということがわかります。
著者のいうとおり、ブリューゲルの時代のように、貴族らの要請に応じて、じっくり時間をかけて、丁寧に細部まで描き込んだ作品はもう生まれないのではないでしょうか。

画家にまつわるエピソードの他にも、遠近法などの技術の発達や、これから絵を始める人のための道具や画材のえらび方についての具体的な解説もあります。

「線は直接手の動き、つまりは心の動きを反映します。・・・デッサンの線は思考の痕跡です」という言葉が印象的でした。

No.175 「読書術」

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加藤周一(著)「読書術」(岩波現代文庫 2000/11)

読書術を説いた書は巷に溢れていますが、本書は現代日本人の中で最も多くの本を読んできたのではないかと思われる評論家、加藤周一(1919-)氏の、読書に関する知恵をまとめたものです。

2000年に岩波現代文庫として発行されていますが、初版(新書版)は昭和37年(1962)に光文社カッパブックスとして出版されました。
45年前の出版と、もはや古典に属する著作ですが、内容には普遍性があり、具体的な読書のノウハウは現代でも十分新鮮に感じられます。

内容は、1どこで読むか、2どう読むか、その技術(おそく読む「精読術」、はやく読む「速読術」、本を読まない「読書術」、外国語の本を読む「解読術」、新聞・雑誌を読む「看破術」、むずかしい本を読む「読破術」)といった構成であり、ユーモアを交えた文章で綴られています。

冒頭で著者が述べていますが、「何を読めばいいのか」は自分で考えるべき問題であって、本書はあくまでも「読み方」に的を絞った内容となっています。

加藤氏の文章は、広範な知識を元に論理的に緻密に組み立てられているのが特徴ですが、本書は口述筆記に手を入れてまとめられたものであり、わかりやすく気軽に読み進めることができます。

あとがき部分は文庫版で新たに書き足された部分ですが、ここに氏の語る読書の愉しみが要約されています。
「人生は短く、おもしろそうな本は多し。・・・本を沢山読むということは、日本語を沢山読むということであり、日本語による表現の多様性、その美しさと魅力を知るということでもあるでしょう。」

 

No.174 「無常という名の病」

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山折 哲雄(著)「無常という名の病―受け継がれる魂の遺伝子」(サンガ新書 2008/01)

万葉集以来の日本の詩歌、文学、思想などを貫いている「寂寥感」や「無常観」をテーマに、エッセイ・講演をまとめたものです。
著者で宗教学者の山折哲雄(1931-)氏は、東北大学助教授、国立歴史民族博物館教授、国際日本文化研究センター所長などを歴任しています。

とり上げられているのは、倫理学者として失敗し古寺巡礼に結実した和辻哲郎の思想、道元に傾倒した良寛の生き方、短歌や俳句にあらわれた日本人の叙情感や同行二人(どうぎょうににん)の生き方、地震列島ゆえに生まれた日本人の無常観、坂口安吾の堕落論など、多岐に渡っています。

近年は短歌から叙情が消え、文学もやせ細りはじめているという指摘には納得させられます。ケータイ小説には、叙情があるのでしょうか。

タイトルから想像されるような深刻な内容の書ではなく、宗教色もほとんど感じられません。
日本人の精神史を振り返り、文学や思想の底流に流れる日本人独特の感性について考えさせてくれる本です。

No.173 「人材育成のジレンマ」

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ハーバードビジネスレビュー編集部 (訳)「人材育成のジレンマ」 (ハーバード・ビジネス・レビューケースブック 2004/12)

No.171で紹介したHBR(Harvard Business Review)のケース・スタディシリーズで、人を管理するというテーマに扱ったものです。
こちらも、短編小説のようなスタイルでケースを紹介し、それらについて識者がアドバイスを提供するという形式で書かれています。

本書では、人の管理に関わる次の6ケースが取り上げられています。
・CASE1 重要幹部の癇癪によって巻き起こった社内騒動をどう収束させるか
・CASE2 CEOをめぐるスキャンダルにいかに対処すべきか
・CASE3 ミスを責め立てるスター社員にどう対処すべきか
・CASE4 管理能力のないヒットメーカー社員をどのように扱うべきか
・CASE5 変わり者をめぐる疑心暗鬼をいかになくすか
・CASE6 給与情報はどのように共有されるべきか

これら各章のタイトルを読んだだけでも、どこの企業にも起こりがちで、しかも対応に相当苦慮する問題であることが想像できます。

たとえばCASE2では女性問題の絶えないCEOのケースが取り上げられています。
その解決策として、「取締役会が厳しく勧告する」、「企業の未来に不可欠の存在である場合、病気を治療すべき」、「問題の存在を否定するならば、取締役会は解雇の可能性を伝える用意をしなければならない」、といったアドバイスが示されています。
またCASE5では、変わり者の社員が乱射事件でも起こすのではないかという不安が扱われており、銃社会アメリカの深刻な実情をうかがわせます。

このシリーズは、表紙デザインや書名はきわめてアカデミックな雰囲気を持っていますが、内容はわかりやすく、専門知識なしに気軽に読めるよう工夫されています。

No.172 「思考スピードの経営」

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ビル・ゲイツ(著)「思考スピードの経営 - デジタル経営教本」 (日経ビジネス人文庫 2000/11)


「1980年代は品質が問題となった時代で、1990年代はリエンジニアリング(業務の根本的革新)が課題となった時代だったとすれば、2000年代は速度が課題となる時代といえよう」(序論より)

ビル・ゲイツによれば、「デジタル・ナーバス・システム」による企業の変革こそが、その鍵となるという。
「デジタル・ナーバス・システム」とは、「最適な時期に会社の最適な部門に、うまく統合化された情報の流れを提供する」ものと説明されています。

多くの経営者が、「ITはツールである」という表現をします。これはITに使われるなという意味でしょうが、やや違和感を感じます。
ITは単なるツール(道具)ではなく、ビル・ゲイツが指摘したように、企業の生命線ともいうべき神経系になっているからです。

本書は、マイクロソフトの顧客企業への調査も踏まえた、具体的で実践的な内容の書です。
特に、マイクロソフト自身がシステムを活用して成果をあげている実例に興味を引きつけられます。
MSセールスというシステムの販売データと、人口や事業所などの統計データを組み合わせて、ターゲットを絞った効率的なマーケティング活動を展開し、大きな成果をあげた内容が紹介されています。

マイクロソフトの強さは、豊富な人材と資金による技術開発力だけではなく、具体的な数字に基づく戦略とマーケティングの展開、結果最重視の姿勢など、活力に満ちた企業風土にあることがわかります。

「情報が人間の思考と同じくらい迅速かつ自然に会社の中を流れ、あなたが情報技術を使って、個人をある問題に集中させるのと同じくらい素早く、チームを結集させ、調整できるようになったとき、あなたは素晴らしいデジタル・ナーバスシステムを構築したということができる。それこそ、思考スピードの経営なのだ」(第2章 p78より)

No.171 「組織変革のジレンマ」

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ハーバード・ビジネス・レビュー(編)「組織変革のジレンマ」 (ハーバード・ビジネス・レビューケースブック 2004/11)

「ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)」のケース・スタディシリーズのなかの1冊です。
このシリーズは、いくつかのケースを短い物語の形で提示し、その後に複数の識者が解決方法のアドバイスを提供するというユニークなスタイルを採っています

本書では、組織の変革に関わる6つのケースが取り上げられています。
・CASE1 成果主義の評価基準はどこが間違っていたのか
・CASE2 保守的な組織風土をいかに改革するか
・CASE3 ベテランと若手が学び会う風土に変えられるか
・CASE4 コスト・センターをいかにプロフィット・センター化させるか
・CASE5 文化の異なる企業同士の合併をいかにして成功に導くか
・CASE6 雇われ幹部と既存経営陣はどのように協働すべきか

いずれのケースも、短編小説のように気軽に読めるように記述されています。
たとえば、CASE1では、業績管理システムを導入したために、評価基準の達成が社員の関心の中心になり、顧客満足が低下したケースが提示されます。
そして、「新任CFOは現場を歩き回り、人々と対話することから始めるべき」、「必要なことは、顧客中心の評価基準を導入すること」など、4人のアドバイスが提供されています。

経営者としての基礎能力を高めることを目的としたシリーズですが、堅苦しい教科書ではなく、ハウ・ツー本でもありません。
どの企業にでもありそうなケースを題材として取り上げることにより、興味を持って問題を考えるよう工夫されています。
そして、コンサルタントや企業家が確かな理論と経験に裏付けられたアドバイス("My Opinion")を提示しています。解答はひとつではありません。

 

G.M. ワインバーク (著),木村 泉(訳)「システムづくりの人間学―計算機システムの分析と設計を再考する」 (共立出版 1986/06)

お気に入りのワインバーグ先生の、システムづくりにまつわるエッセイ集です。
副題にあるように、計算機システムの分析と設計は理屈通りにいかないのが普通で、その原因は人間が介在することにあります。
ワインバーグの他の著書から引用すれば、「問題は必ずある。そしてそれは人間の問題である」という主張に相通じるテーマです。

初版は1986年で、その後20年間でシステム設計の構造的な方法の発達や開発プロジェクトのマネジメント手法の進展がありましたが、ワインバーグの指摘した人間の問題は大きく変化していないように思えます。
いわれた通りに作ったはずのシステムなのに、いわれた通りに作られていないと怒られる、といったコミュニケーションの問題はその最たるものです。

本書も、ワインバーグ独特の逆説や比喩に満ちています。
「皮肉なことに、知ったかぶりに陥らないためのもっともよい方法は、もっともっと学び続けることなのだ。そのうち頭が重くなりすぎて落ちてしまわないかとご心配かもしれないが、そんなことはない。実際頭は、ものを詰め込めば詰め込むほど、軽くなるものだ」(p233より)

すんなり頭に入る本ではなく、何度も立ち止まって考えることを求められます。
しかし読み終えるころには、常識で凝り固まった思考が、多面的で柔軟になっていることに気づくでしょう。

No.169 「ジャガイモの世界史」

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伊藤 章治 (著)「ジャガイモの世界史―歴史を動かした『貧者のパン』」 (中公新書 2008/01)

ジャガイモと人類の関わりを、世界各地への取材を通して多面的に考察した書です。
南米原産(*1)のジャガイモは、スペインの新大陸発見以降世界に広まり、日本にも1600年頃オランダ船から伝来したとのことです。

本書は、北海道開拓を支えたジャガイモの役割や、ジャガイモ発祥の地であるペルーのティティカカ湖周辺でのレポートから始まります。
そして、ヨーロッパ旧大陸へジャガイモが伝搬されてからの、イギリス支配下におけるアイルランドやヨーロッパ諸国における普及の歴史が紹介されています。
最後に日本各地におけるジャガイモ栽培への取り組みの歴史や、さまざまなエピソードが綴られています。

本書を読むと、ジャガイモが世界史において非常に重要な役割を演じてきたことがわかります。
エビもそうでしたが、ありふれた食材でも、その背後にある歴史や経済、国際関係に思いを巡らせながら食すると、いつもと違った味わいが感じられるかもしれません。
なお、2008年は国連の定めた「国際ジャガイモ年」にあたるということです。

(*1)ペルーの標高4000メートル前後の高地で、西暦500年頃栽培が始まったとみられているとのこと。

 

No.168 「ブルーオーシャン戦略」

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W・チャン・キム,レネ・モボルニュ(著),有賀 裕子(訳)「ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する」 (ランダムハウス講談社 2005/6)

ブルーオーシャン戦略は、INSEAD(*1)のW・チャン・キムとレネ・モボルニュによって2004年にHarvard Business Reviewに発表され、大きな注目を集めました。
「ブルー・オーシャン」という言葉は、血で血を洗うような激しい競争が繰り広げられている「レッド・オーシャン」との対比であり、競争のない未開拓市場を意味します。

携帯電話業界、家電量販店、ドラッグストア・・・、激烈な価格競争とサービス競争のレッドオーシャンの実例は巷に溢れています。
これに対し、シルク・ドゥ・ソレイユ、QBハウス、Wiiなどに代表される、新たに創り出された市場が、ブルーオーシャンです。

「輝かしい未来を手に入れるためには、競争から抜け出さなくてはいけない」
「競合他社に打ち勝つただ一つの方法は、相手を負かそうという試みをやめることなのだ」

つまりブルーオーシャン戦略とは、コストリーダーシップや製品差別化という「競争戦略」を超えて、競争のない市場を創り出し、イノベーションによって低コストと差別化を両立させることを目指す戦略です。
そのために、6つのパスに注目して市場の境界を引き直す、4つのアクションによりバリュー・イノベーション(価値革新)を図る、買い手にとっての効用を生み出す6つのテコに注目する、といった方法を提示しています。。

本書はブルーオーシャン戦略の原著といえるもので、豊富な具体例によって理論と実際をより深く理解することができます。

(*1)フランスとシンガポールにキャンパスを持つビジネススクール・大学院

 

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