2008年2月アーカイブ

No.147 「不況のメカニズム」

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小野 善康 (著) 「不況のメカニズム―ケインズ『一般理論』から新たな『不況動学』へ」 (中公新書 2007/04刊)

小売業や飲食・サービス業の現場で、モノが売れない、顧客が減ったという声を、昨秋以来頻繁に聞かされるようになりました。
商業統計(*1)や家計調査(*2)などの統計資料にも、消費の低迷は顕著に現れており、平成不況とよばれる需要低迷が10年以上も続いています。米国で主流の市場メカニズムを基本とする新古典派経済学による処方では、問題の解決には至っていないようです。

市場が効率的に働いても、需要が増えないのはなぜか、本書はその構造的な問題に迫ったものです。
著者は、ケインズ一般理論について、その誤謬を正し、足りない要素を付加することで、ケインズ理論を再構築し、現代においても有効であることを証明しようとしています。
著者自身この試みを、一般理論というジグソーパズルの足りないピースを補ってパズルを完成させるものといっています。

ケインズは、どのような公共事業であっても雪だるま式に需要を喚起するという乗数効果を唱えましたが、これが新古典派の「小さな政府論」から批判されることとなり、その結果公共事業の真の価値まで否定されてしまったということです。

著者はこのようなケインズの誤りを修正し、消費の利子率という概念を導入してケインズ理論を再構築することにより、公共事業の意義を再確認します。

「公共事業の意義とは根拠のない需要の波及効果ではなく、うち捨てられていた貴重な労働資源を少しでも役に立つ物の生産に向けることである。その価値は、それによってできた物の価値のみによって判断されなければならない」(p166より)

ジグソーパズルに残された最後のピースとは、消費の利子率でした。

(*1)http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syougyo/index.html
(*2)http://www.stat.go.jp/data/kakei/index.htm

No.146 「二十世紀を歩く」

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森本 哲郎 (著)「二十世紀を歩く」(新潮選書 1985/10刊)

本書が出版されたのは1985(昭和60)年、二十世紀も残り15年というときです。
二十世紀がどのように幕を閉じるのか、そして二十一世紀がどのように幕を開けるのか、本書は歴史にその手がかりを得ようとした、探求の書であるといってよいでしょう。

森本哲郎氏(1925-)は、二十世紀に起きたおもな出来事や事件を手がかりに、時代の本質に迫ります。

取り上げられているテーマは、知識人による討議(ニース:1935年「現代人の形成」、東京1942年:「近代の超克」)、幻滅に終わったジイドのソヴィエト旅行、フォード主義とアメリカ文明、自動車革命、巨大都市、大衆社会、情報化社会など、広範な分野に及んでいます。

このうち情報化社会の章では、情報社会と情報化社会を区別したうえで、その本質的な問題を指摘します。
情報化社会は、「これまで人間が努力したすえに生みだしてきた知恵を単なる知識のレベルに降格させ、それをさらに単なる情報の次元へと解消させつつあるのだ」。


森本氏が指摘するように、二十世紀を特徴づける最大の事件は、二度の世界大戦と科学・技術の急速な発展であり、それによって人間がすっかり変質したことが二十世紀の本質であると思います。

随所に東西冷戦の影が見え隠れします。
節目の世紀と対峙して、森本氏はじめ多くの知識人が「存続か絶滅か」という切迫した危機感を抱いていたことが伝わってきます。

カルロス・ゴーン,フィリップ・リエス(著)「カルロス・ゴーン経営を語る」(単行本2003/9刊)

カルロス・ゴーン(1954-)へのインタビューにより、その生い立ちから日産の再建に至るまでの半生を丁寧に追いかけたものです。
ゴーンの言葉は括弧で括って記述され、フィリップ・リエスの綴った箇所とは明確に区別されています。

ゴーンの国際人としての生い立ちにも興味を覚えますが、やはり本書のクライマックスは、日産再建に関わる部分です。
「日産リバイバル・プラン(NRP)」と名付けられた再建プランの発表は、それまでの日本企業では前例のない大胆なものでした。
会場で取材していた記者たちから賛辞の拍手が沸き起こったということで、明快で断固としたトップの意思表明が待ち望まれていたのだと思います。
このとき「経済活動においては、勝者と敗者が生まれる」ということが明確に示されたのです。

NRPにより日産は再建を果たします。工場閉鎖や人員削減、サプライヤーの絞り込みなどによる影響は甚大でしたが、ゴーンによればもし再建策を実行しなかったら日産の経営は破綻し、より深刻な結果になっただろうとのことです。

コスト・カッターという異名のあるゴーンですが、ひとりの経営者として見たときには、学ぶべき点が多々あります。
たとえば、自身のアイデンティティは維持しながら相手国に溶け込むための努力や、「セブン・イレブンの日々」と評されるほど精力的に、日産の工場やサプライヤーを訪問して率直に意見を聞き、問題を自ら確かめようとする姿勢、そして再建目標を達成できなければ辞任するという退路を断つ姿勢など、相当の覚悟と熱意を持って再建にあたったことが伝わってきます。

このようにエネルギッシュに目標を追求する姿勢は、ジャック・ウェルチ(No.62「わが経営」)、マイケル・デル(No.144「デルの革命」)、ジョン・ウッド(No.115「マイクロソフトでは出会えなかった天職」)など、すぐれた経営者に共通のものですね。

No.144 「デルの革命」

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マイケル・デル(著)「デルの革命 - 「ダイレクト」戦略で産業を変える」 (日経ビジネス人文庫 2000/11刊)


パーソナル・コンピュータの通販で急成長したデル・コンピュータの、誕生から1999年頃までをマイケル・デル自らが綴ったものです。


本書は成功者の思い出話ではなく、非常に優れた経営のテキストです。
マイケル・デルは本書を、読者自身の「競争力を高めるためのガイド」として読んでほしいといっています。


まずマイケル・デルの経歴を読むと、氏が生来のビジネスマンであることがわかります。
わずか12歳!にして、近所の人から預かった切手のカタログ販売で2000ドルの収益をあげ、16歳のときは新聞勧誘のアルバイトで1万8000ドルもの年収を得ています。
1984年に1000ドルの資本金で創業したデルは急成長を続けますが、やがてビジネスのテーマは「成長、成長、成長」から「流動性、収益性、成長」へと変化していきます。
自らが「成長しすぎている」ことに危機感を抱き、パソコン業界の淘汰の流れを先読みして、戦略を転換していく決断の見事さに感心させられます。


デル・コンピュータは、中間流通を省いたダイレクト・モデル、顧客の要望に合わせた製品開発、在庫の最小限にするサプライチェーン・マネジメントの成功例として、世界的に評価されていますが、デルに競争優位をもたらして要素(コア・コンピタンス)として、次の3点をあげています。
□普及しているIBM-PC規格と互換性のある高性能な製品シリーズを製造する能力
□ダイレクト・リレーションシップに基づくマーケティング・コンセプト
□効率的で柔軟な製造オペレーションを維持し、それによって無駄のない資産ベースをを確保する能力(1987年私募債発行の趣意書より)


企業が誕生し、成長していくなかで、経営者がどのような意思決定を行ってきたのか、またパーソナル・コンピュータ市場の黎明期から成長期、そして成熟期という急激でダイナミックな変化に対しどのような戦略を取ってきたのかが率直に語られています。
「どんな可能性があり、何を実現できるかを考え、それに応じて目標を高くしていく−これが私たちのいつものやり方だった」(p60)


本書が出版された当時と現在では、パーソナル・コンピュータをめぐる環境は大きく変わりました。
かつてパソコンはテクノロジーを代表する機器であり、モデルチェンジのたびに性能が大きく向上し、ユーザーにとっても買い替えによるメリットが実感できました。
最近では事務用品もしくは日用品となり、ありふれた道具になりました。普及機でも性能になんら不足はなく、最先端の機能を求めるユーザーは一部に限られています。
最近のデル・コンピュータの広告メッセージも、最速・高機能・最先端ではなく、コスト・パフォーマンスを訴求したものが中心になっています。
ネットの「あちら側」が主流となった時代に、デルがどのように対応していくのか興味を持って見守りたいと思います。

 

No. 143 「企業戦略論(中)」

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J・B・バーニー(著),岡田正大(訳)「企業戦略論【中】事業戦略編 競争優位の構築と持続」 (単行本 2003/12刊)

No.127で紹介した バーニーのMBAテキスト「企業戦略論」3巻構成の中巻は、垂直統合、コスト・リーダーシップ、製品差別、柔軟性、暗黙的談合の5つの章から構成されています。

競争優位性の主要課題であるコスト・リーダーシップと製品差別化の方法については、ポーターの「競争の理論」の解説だけではなく、脅威や機会、組織構造と関係づけて、体系的・網羅的に扱われています。

第6章「垂直統合」では、バリューチェーンにおける垂直統合の価値、取引費用理論に基づく統治の選択肢、そしてリソース・ベースの視点から見た垂直統合戦略が説明されています。
企業の垂直統合度が、売上高付加価値率を示す簡単な式でおおよその見当がつくというのはひとつの発見でした。
また、「一般的人的資本投資」(*1)という概念にも共感を覚えました。

第7章「コスト・リーダーシップ」では、規模の経済、経験の差がもたらす学習曲線による経済性、技術上の優位などコストリーダーシップをもたらす要因と、こうした競争優位を最大化するための組織体制について解説されています。
「競合を下回る価格を設定すれば、競合に対してさらなるコスト削減が可能であるというシグナルを送ることになる。」(p89)という指摘にも納得させられます。
安易な低価格戦略は、レッド・オーシャンへの道ですね。

第8章「製品差別化」では、ポーターの「競争の戦略」から製品差別化を行う方法が紹介され、また実証研究から導き出された差別化要素、経営組織との関係、バランス・スコアカードについても触れられています。
「製品差別化とは、最終的には、常に顧客の認知の問題である」(p113-114)という指摘は、肝に銘じるべき言葉です。

第9章「柔軟性」では、戦略の選択における不確実性の問題が扱われ、金融オプション理論に基づくリアルオプション理論の手法が説明されています。
難解な数式を3つのステップに分解し、わかりやすく説明する手法には、ティーチング・アウォードを5回受賞したバーニーの神髄があらわれています(それでもすらすらとは読めない部分でした)。

最後の第10章「暗黙的談合」では、協調問題と裏切りについて解説されています。

(*1)general human capital investments・・・blogを書くこともそうですね。

No.142 「まともな人」

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養老 孟司(著)「まともな人」(中公新書 2003/10刊)

養老孟司(1937−)氏は、ふだんあたりまえと思っていることに「本当にそうか?」と鋭い疑問を突きつけています。

本書は中央公論に連載の時評をまとめたもので、2001年から2003年までの出来事や話題をめぐって、氏の見解が述べられています。ちょうど911の出来事があった時期で、テロや原理主義について多くのページが割かれています。

他の著作とも共通する視点ですが、「ああすれば、こうなる」式の思考や行動がいかに過ちに満ち、社会のさまざまな問題を引き起こしているのか、都市化や脳化社会が問題の根幹にあることを指摘しています。

「情報とは停まったもので、生きて動いている存在ではない」、「自分だけのものとは、心ではなく、じつは身体である」、「人生の意味を問うというのは、若者たちの特権というわけでもない」、これらの言葉に、ある種の爽快感さえ覚えます。

養老氏の著作の多くがベストセラーになっているのは、そのような思い切りのよさが支持されているからかも知れません。
ただし養老氏自身は、他人がどう感じようがそんなことは気にせず、虫のことを考えているのかもしれません。

No.141 「旭山動物園革命」

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小菅 正夫(著)「旭山動物園」革命―夢を実現した復活プロジェクト (角川oneテーマ21 2006/2刊)

日本一の集客を達成している旭山動物園園長が、復活のプロジェクトを自ら語ったものです。

旭山動物園については多くの著書やメディアによってその成功物語が伝えられていますが、動物園経営という視点で取り上げられている場合が多いようです。
本書でも、動物園経営を取り巻く構造的な問題や、プロジェクトを成功に導く組織作りについて紹介されています。

しかしそれ以上に、動物の側に立った環境づくりが本質的に大切であることが強調されています。
動物の身になって考え、その特徴を際立たせるような「見せる工夫」や、動物との触れ合いを感じさせる手法、老いや死をかくさず伝えることの必要性など、園長や飼育係でなければわからない要因が紹介されています。

私は時おり動物園(八木山動物園)に行くと、彼ら(動物たち)は毎日何を考えて過ごしているのかと感じることがあります。冬のコンクリートはさぞ冷たかろう、などとも・・・。

旭山動物園のように動物の個性にあわせた心地よい環境を用意すれば、動物は生き生きとすごすことができ、お客様も楽しい気持ちになるのは当然ですね。

No.140 「希望のしくみ」

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養老 孟司,アルボムッレ・スマナサーラ(著)「希望のしくみ」 (単行本 2004/12刊)

養老孟司氏とスリランカ初期仏教の長老アルボムッレ・スマナサーラ氏の対談をまとめたものです。

「はじめに」で養老氏は、原始仏教教典の解説を読んだときのことを振り返り、「なんだ、俺の考えていたことは、お経じゃないか」と驚いた、と述べています。

スマナサーラ氏の話は、釈迦の教えを最も忠実に伝えるというスリランカ初期仏教に則ったもので、日本の大乗仏教諸派の教義とはかなり異なっています。
仏教とは仏の教えを学んで智慧を開発するものであり、宗教ではないとのこと。理路整然とした言質は、信仰に根ざした大乗仏教とは異質なことがわかります。

幸せや生きがい、無常などについて活発な議論が展開されていますが、解剖学者の達した結論(=科学)と釈迦の教えには多くの点で相通ずるものがあることがわかります。
仏教とは心の科学であるといってもよいでしょう。

「おわりに」 ではスマナサーラ氏が、「(養老氏は)純粋に現代科学的なアプローチで、ブッダが語りつづけていた真理のいくつかに達しておられた。仏教の困難を『バカの壁』ゆえと喝破しておられた。真の知性を現代に得て、皆様は幸せというべきでしょう」 と語っています。

池見 酉次郎(著)「セルフ・コントロールの医学」(単行本 1978刊)

著者の池見酉次郎氏(1915- 1999)は、心身医学や心療内科の国際的権威で、九州大学医学部名誉教授、日本心身医学会名誉理事長などを歴任しました。

本書のテーマは、心身二分の西洋医学的な考え方を脱し、「心身一如」の真の医学へ移行することによって、健康と自己実現の達成を促すものです。

こころが原因で引き起こされるからだの不調について、さまざまな適応病や心身症の症例とその原因が取り上げられており、医学から見た人間形成、脳と自律神経系の働き、交流分析、系統的脱感作療法などについて、詳しく解説されています。

そして、心と体は脳によって密接につながっていることを基本に、自律訓練法(*1)、バイオフィードバックによって心身を安定させる方法が、具体的に紹介されています。

「むすび」では、心身一如の医学に取り組む著者の信念が、自身の幼児環境や、母や妻との関わりとともに率直に語られています。
30年前の出版ですが、NHKブックスより現在でも販売されているロングセラーです。

(*1)自律訓練法は、自分の手足の温感や重みに意識を集中し暗示をかけることによって自律神経の安定をはかる方法です。

No.138 「波乱の時代(上)」

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アラン・グリーンスパン(著),山岡 洋一/高遠 裕子(訳)「波乱の時代(上)」(2007/11刊)

FRB(米国連邦準備制度理事会)議長を1987年8月から2006年1月まで勤めたアラン・グリーンスパンの回顧録です。

FRBは米国の中央銀行であり、いわば世界経済の中枢に位置する機関です。

「はじめに」では、911当日の出来事が紹介されていますが、まるで映画を見るような臨場感で迫ってきます。グリーンスパンが国家にとってどれほどの重要人物であるかがわかります。

上巻は、生い立ちから学生時代へ、そしてエコノミストとして社会に踏み出し、フォードからブッシュまで、政権中枢でのグリーンスパンの果たした役割が綴られています。

グリーンスパンの経歴に興味を覚えます。高校卒業後ジュリアード音楽院でサックスやピアノを学び、プロの楽団で働き、その後ニューヨーク大学に進みます。

夜間の修士課程で学びながら、コンファレンス・ボード(全米産業審議会)でエコノミストとして働き、やがてフォーチュン誌に記事が掲載され、注目されるようになります。コンサルティング会社を設立し、鉄鋼業界をはじめ多くの企業の顧問を務めています。

エコノミスト時代の論文執筆の経緯を読むと、グリーンスパンは学者としても第一級であることがわかります。膨大な資料を丁寧に読み込み、計量経済学のモデルとして精密に組み立てる手腕は見事です。

たとえば、朝鮮戦争の頃、航空機の設計書から鉄やアルミなどの素材の比率を推定し、需要を推定する論文を著し、業界から注目を集めます。

大学時代に図書館の資料や論文を読みあさった経験と数学の素養が、その後のエコノミストとしての手法を確立したと思われます。

1987年のブラックマンデーを見事な手腕で乗り切り、マエストロと称されたグリーンスパンの人間性を窺い知ることのできる著作です。

巻頭の30葉ほどの写真にも興味をそそられます。5才のときのポートレートから始まり、学生時代、そして大統領執務室でのスナップまで、写真を通して半生をうかがうことができます。

石田晴久,青山幹雄,安達淳,塩田紳ニ,山田伸一郎(著)「改訂新版 コンピュータの名著・古典100冊」(単行本 2006/9刊)


IT関係の良書や、コンピュータの本質を理解するための基本図書100冊を、いくつかのカテゴリーに分けて紹介したものです。

カテゴリーは、「歴史」、「人物・企業」、「ドキュメンタリー」、「思想」、「数学/アルゴリズム」、「コンピュータサイエンス」、「アーキテクチャ/OS/データベース」、「コンパイラ/言語」、「プログラミング」、「ソフトウェア開発」、「インターネット」の11です。
各書の内容概説と著者のプロフィールが紹介されており、資料としてもよくまとめられています。

本ブログで紹介した本では、「それがぼくには楽しかったから」(No.60)、「スーパーエンジニアへの道」(No.100)が取り上げられています。
自分の専門分野や興味を覚えるカテゴリーのなかから、読んでみたい著作を見つけるとよいでしょう。

私が読んでみたいと思ったのは、「マイクロコンピュータの誕生 我が青春の4004」「IBMの息子」、「アラン・ケイ」など、人物・企業に関するものです。
コンピュータに関わりあいのない人でも、現代の情報化社会を考えるうえで参考になる著作が数多くあります。

編者の石田晴久氏自身も、「パソコン自由自在」・「インターネット自由自在」(いずれも岩波新書)などの良書を何冊か著しています。

磯崎 マスミ(著)「図解 電子マネーの技術とサービス」(単行本 2006/7刊)


SuicaやEdyに代表される電子マネーについて、その仕組みやさまざまなサービス、背景となっている技術について総合的に解説したものです。

発行年次は2006年7月ですが、セブン&ワイホールディングスのnanakoなど最新のサービスについても触れられています。
JR東日本の定期券はほとんどSuicaになり、コンビニエンスストアでケータイで決済ができるようになり、地方のスーパーでも店内でEdyにチャージし決済している主婦の姿が見られるようになりました。(*1)

このような変化は最近急速に拡大しており、小銭がいらないといった利便性に加えて、ケータイひとつで買い物もでき、ポイントも貯まるといった魅力が支持されているのだと思います。高齢者にとっては、小銭の扱いでまごつくことがなくなるという効果も聞かれます。

日本で電子マネーが実用化されたのは、1996年、長野県の駒ヶ根商店街の「つれてってカード」が最初です。
私も駒ヶ根商店街と伊那商店街に視察に行き、実際にカードに電子マネーをチャージして買い物をした記憶があります。また、渋谷電子マネー実証実験(VISAキャッシュ)にも参加しました。当時は、現金で済むのになぜわざわざ手間のかかることをするのか、という素朴な意見もありました。

SONYのFelicaなど非接触型ICチップの技術が確立したことと、ケータイにも装備されるようになったことで、利用環境が整備され、電子マネーは完全に市民権を得たといえます。今後、電子マネーはさらに生活に入り込み、リアル店舗とネットショップでのシームレスな利用や、企業間でのポイント交換などが拡大していくものと思われます。

(*1)宮城県南部に6店舗を展開するスーパーの株式会社アサノは、「アサノおさいふカード」(Edy+ポイント)の活用に積極的に取り組み成果をあげています。

No.135 「わたしの整理術」

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岩波アクティブ新書編集部 (編)「わたしの整理術」 (岩波アクティブ新書 2003/1刊)

仕事の資料や書籍、身の回りにあふれるモノをいかに整理するかは、なかなか解決できない大きな課題です。
デジカメのなかに溜まった半年分の写真でさえ、ようやく昨日整理できたところですから(といってもPCのハードディスクにフォルダを作ってコピーしただけですが)。

本書で紹介されている整理術のなかで、いくつか興味深いものがありました。

まずは茂木健一郎氏の整理術について。
自らの整理の悪さを認めたうえで、インターネット上に情報が遍在する時代に、自分のオフィスや書斎といった閉じられた空間において、情報を体系的に整理して「囲い込んでも」大した意味はない、ということを述べています。必要なのはまず「脳の整理」「脳の手入れ」であり、「所有すること」よりも「志向すること」が重要だということ。

色川大吉氏は旅の資料や写真の整理について述べていますが、撮影したスライドを後日拡大して見ると意外なものが写っていることに驚くという。「日記や雑録は人間の意識をとおして記録されたものであるのに対し、写真には意識を超えた映像が残されている」。このような写真の記録性の持つ歴史的価値に注目することが重要であるという。

また塚本昌彦氏は、机の上にいっさいものを置かないという、きわめて潔い「一掃による片づけ術」を実践しています。

これらの例でわかるように、本書は単なる整理法やファイリングの技術を扱ったものではなく、情報やモノをいかに扱うか、どう向き合うかという思想の、多様性を伝えてくれます。

結局、整理とは人の問題なのですね。

No.134 「働く意味 生きる意味」

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川村 真二(著)「働く意味生きる意味―73人のみごとな生き方に学ぶ (日経ビジネス人文庫 2007/12刊)

ひとつのエピソードが、その人の人間性を如実に物語ることがあります。

たとえば、本田宗一郎が米国のバイヤーを日本に招いたときのエピソードです。
その人が料亭のトイレに入れ歯を落とし困り果てていたとき、「よし、俺が取ってくる」と言い、裸でくみ取り式のトイレに飛び込み、入れ歯を捜し当てたという。

また、土光敏夫が再建を任された東芝での出来事です。雨の降る姫路工場を訪れ、傘もささず濡れたまま話を続けた土光を前にして、従業員もみな傘を閉じて話に聞き入り、帰り際には車に駆け寄ってきたという。

本書は、このようなエピソードを紹介しながら、幕末から現代までの著名人、経営者、学者、文学者、政治家、芸能人などの人となりを伝えてくれます。

一人あたり3ページほどの分量のなかに、その人の凝縮された人生(半生)が綴られています。いずれの人物にも、生きることに対するひたむきさを感じます。

もし誰かがわれわれの伝記を著してくれるとしたら、そこにはどのようなエピソードが綴られるでしょうか

No.133 「温泉文学論」

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川村 湊 (著)「温泉文学論」(新潮新書 2007/12)

 日本近代文学の中から、温泉地を舞台とした作品を選んで紹介した本です。
 取り上げられているのは、「金色夜叉」「雪国」「伊豆の踊り子」「天城越え」「銀河鉄道の夜」「城の崎にて」など、10作品です。

著者独自の視点から作品鑑賞のポイントが語られており、興味を覚えます。
例えば、「金色夜叉」はアメリカの小説の翻案であり、さらに金色夜叉に倣った「長恨夢」(*1)という小説もあったことが明らかにされています。
また「雪国」は、おとなのための巧緻な官能小説であると評されており、ノーベル賞作家の純文学作品という一般の認識からすると、そういう読み方ができるのかという発見があります。

作品が書かれた当時の交通状況についても詳細な解説があり、鉄道ファンならずとも楽しんで読めると思います。
金色夜叉の時代、熱海に行くには「人車鉄道(人力トロッコ)」に乗らなければならなかったとか、まさに隔世の感があります。

各章末にはそれぞれの温泉地の歴史や特徴、「汽車」を中心とした交通アクセスの解説などがあり、ガイドブックとしても読めます。

 (*1)趙重恒 著:1913年発表

小林隆,榊原直樹,関根千佳,遊間和子(著),山田肇(編)「ITがつくる全員参加社会」 (単行本 2007/12刊)


ウェブ社会が着実に進展するなかで、さまざまな理由からウェブ社会の果実を享受できない人々の存在が指摘されています。
この本は、高齢者や障がい者など、IT機器の操作ができないために不利益を被っている人々を減らし、IT「全員参加社会」を創るための提言をまとめたものです。
パソコンや携帯電話の操作ができない高齢者や、銀行ATMのタッチパネルが操作できない視覚障害者などは、情報やサービスへのアクセス手段が限られます。
本書では、高齢化社会の現状や年代別のインターネット利用状況などの資料に基づき(*1)、「情報アクセシビリティ」という観点から、ウェブ社会から取り残された人々の問題(*2)が明らかにされ、また欧米の取り組みも紹介されています。
まとめとして、国や企業、地方政府がなすべきことについて、いくつかの提言がなされています。
なお、ウェブサイトのアクセシビリティについては、「ウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン(W3C勧告「Web Content Accessibility Guidelines 1.0」)」が定められています。
(*1)引用されている資料は、「通信利用動向調査」からのものが多くなっています。
(*2)情報格差には地理的な要素もあり、光がきていない地域、あるいは都市にあっても中継局の境界にあってブロードバンドが利用できないといったところも存在します。

No.131 「プレミアム戦略」

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遠藤 功 (著)「プレミアム戦略」 (単行本 2007/12刊)

最近よく目にする「プレミアム」という商品について、単なるブランド志向との違いや、プレミアム市場における消費者意識を分析したものです。

著者は、プレミアム市場を形成する要素として、経済的豊かさと消費者の消費に関する「欲望の質」を指摘しています。
日本人の欲望の質については、国際的に見ても高水準であり、これは江戸時代以来の「もの」の細部にこだわる町人文化に根差したものであるということです。(*1)

自動車や時計などさまざまな商品を例にあげて分析し、消費者にプレミアムを感じさせるためには、「機能的価値」と「情緒的価値」の2つが必要ということを指摘しています。プレミアム商品は高価な奢侈品に限らず、ビールなどの身近な商品にも増加しています。これらは、自分へのプレゼントとして、あるいはストレスに満ちた日常におけるささやかな楽しみといった理由で消費されているのではないかと、その心理を分析しています。
また近年は、作り手の価値観に共感して商品を購入し、修理しながら長く使うファンが増えているということです。

紹介されているプレミアム商品は、海外有名ブランドの商品が多くなっています。(*2)
そして日本にプレミアム商品を育てるためには、「本物の職人を育てる」、「ストーリーを創る」、「上場にこだわらない」などを提言しています。
最後に著者お気に入りのプレミアム商品として、セイコー、ミキモト、千疋屋、虎屋、タケダワイナリー、星のや 軽井沢、大塚製靴などが紹介されています。

(*1)アート鑑賞マニュアル「NHK 美の壺」
http://www.nhk.or.jp/tsubo/を見ると実感できます。
(*2)「ドイツ発ブランド」のなかに、ブライトリングがあげられているのは、著者の記憶違いか。

 

No.130 「ついこの間あった昔」

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林 望 (著)「ついこの間あった昔」(単行本 2007/12刊)

著者の愛読書であるという「写真でみる日本生活図引」の写真から30点を選び出して、それらの写真から想起される自身の思い出や、時代の有り様を綴ったものです。

題材となっている写真は、戦後まもない時期から昭和30年代の高度成長基までのものが中心で、夢中に遊ぶ子供たちや、農村の生活、団地や首都高速などさまざまです。
それぞれの写真の光景についての解説があり、当時の生活の様子が紹介され、そして写真が呼び覚ました著者の記憶が、現実の手触りを伴って語られています。
著者の林望氏は1949年生まれですが、四十代以上の人たちなら懐かしく思い起こされる写真が見つかると思います。

「テレビ様降臨の日」(昭和34年の写真)では、著者の家にテレビがやって来たときの出来事が「歴史的な一日」として綴られています。
ちなみに、私のテレビにまつわる思い出は、確か1968年(メキシコオリンピックの年)、カラーテレビがやって来た時のことです。電器屋さんが設置している様子を、脇で興味深く眺めていたと思います。初めて写った映像は、確かアフリカのサバンナでした。

本書は、単なる懐かしさや、昔は良かったという感慨だけではなく、失ったしまったものを思い起こさせ、時代を語り継ぐことの大切さを伝えてくれます。
現代に比べれば、圧倒的な貧しさや乏しい社会資本のなかにあっても、人びとの明るい表情や落ち着いた佇まい、包容力のある地域社会の姿が印象的です。
ひるがえって現代を眺めてみると、街角に子供の姿は見当たらず、全国どこに行っても同じような町並みが広がり、人々の表情は険しさを増しているように思えます。
50年後の人々は、このような光景をどのように評するでしょうか。

「歴史もまた人間の営みである以上、すべてものが無常に変転していくのは止むを得ないとしても、・・・せめては、こういう写真に記録として留めて、それを子々孫々まで語り継ぎ言い継ぐべき義務が、私どもにはある」(おそるべき風景 P235より)

佐和 隆光 (著)「高度成長―「理念」と政策の同時代史」(NHKブックス)

昭和30年から45年までの高度経済成長の歩みを、経済白書の記述を丁寧に読み込むという作業によって掘り起こし、未曽有の成長をもたらした構造的な要因を解きあかそうとしたものです。
経済白書には、戦後復興から量的拡大への歩み、大きな政府への指向、その後40年代になった顕在化した公害問題などのひずみの認識、日本経済の構造的な課題として認識され続けてきた企業規模や地域の格差や跋行性などが記述され、まさに日本経済の歩みを写す鏡であったことがわかります。
国民所得倍増計画に代表される産業政策として量的拡大を目指した時代、技術革新と消費革命の時代、そして公共支出主導型経済への転換と生活の質の充実へと、いわゆるパラダイムの転換の考察が展開されています。
1984年刊行の本ですが、20年以上経た現在読んでみて、いくつか興味深い内容があります。たとえばIT社会を考えるうえで、次の一文に目がとまりました。
「いまにして思えば、昭和四〇年代の前半期に人びとが電子計算機に寄せた期待は、あまりにも過大にすぎたとしかいいようがない。人間社会の一切合切が、電子計算機のたすけを借りれば、たちどころに解読され、未来予測も思うがままであるかのように錯覚されていたのである。」(第三章 長期繁栄の光と影 P108より)
この文章の「昭和四〇年代」を「2000年代」に、「電子計算機」を「ウェブ(インターネット)」に置きかえてみたらどうでしょうか。

中野 明 (著)「ポケット図解 チャン・キムとモボルニュの「ブルー・オーシャン戦略」がわかる本―競争のない未開拓市場を創る!」 (単行本)

「トヨタ方式の基本がわかる本」(No.56で紹介)などを著している中野明氏が、「ブルー・オーシャン」戦略について解説した本です。
ポケット版の制約のなかで、要点を押さえた解説、見開き2ページに説明と図表を配するレイアウトは共通です。
M.E.ポーターに代表される「競争の戦略」論とは異なる視点に立った「ブルー・オーシャン戦略」は、2004年にハーバード・ビジネス・レビューに発表されて以来、大きな注目を集めています。
「レッド・オーシャン」の激しい競争のなかから抜け出し、競争のない未開拓市場である「ブルー・オーシャン」へ移行するという戦略論です。
本書では、戦略パネルによる現状分析から戦略の策定、実行まで、ブルーオーシャン戦略の一連のプロセスについて解説されています。
ブルーオーシャン戦略の詳細については原著を読むべきですが、本書でもそのエッセンスは理解することができます。
ポーターやドラッカーの戦略論との関係や、伝統的なマーケティング理論(アンゾフ・マトリックス、PPMなど)のワンポイント解説もあり、この部分も参考になります。

 

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