2008年1月アーカイブ

No.127 「企業戦略論」

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J・B・バーニー(著),岡田 正大(訳)「企業戦略論【上】基本編 競争優位の構築と持続」(単行本)

MBAのテキストとしてかかれたもので、原題の"GAINING AND SUSTAINIG COMPETITIVE ADVANTAGE "が示すように、競争優位性の獲得と維持がテーマです。邦訳は原著を上・中・下に分けた3巻構成となっています。
著者のJ・B・バーニーは、RBV(*1)の第一人者で、大手企業の戦略コンサルティングを行い、また在職した3つの大学で計5度の「ティーチング・アウォード」を受賞しているとのことです。
本書の内容は、経営戦略の定義(「ミッションと目標を達成するための手段」)から始まり、SCP(*2)モデルとSWOTフレームワークに基づく脅威・機会、強み・弱みといった事項の体系的な解説が続き、RBV、VRIOフレームワーク(*3)に展開されています。
SWOT分析はバランス・スコア・カードによる戦略策定でも必須のプロセスですが、機会・脅威・強み・弱みの項目を抽出するのはなかなか骨の折れる作業です。
本書ではM.E.ポーターの理論に拠り、脅威の項で「新規参入・競合・代替品・供給者・購入者」という5要素の詳しい解説がなされ、機会の項では「市場分散型業界・新興業界・成熟業界・衰退業界・国際業界」といった業界特性別に、着目すべき機会について述べられています。
これらの着眼点を理解することにより、SWOT分析の質が向上することは容易に想像できます。
講義を念頭においているためか、重要な事項については何度も繰り返し、企業の例やモデルを示しながら説明されています。
体系的で網羅的な論理展開、平易な文体とわかりやすい表現で記述された優れたテキストです。
上巻は300ページほどの分量ですが、経営学の専門書としては異例に読みやすく理解しやすい本です。
中・下巻の内容については後日紹介したいと思います。
(*1)RBV(resource-based view)・・・経営資源に基づく視点。企業の競争優位の源泉として、内部資源に注目する経営戦略理論。
(*2)SCP(structure,conduct,performance)・・・業界構造-企業行動-パフォーマンスの関係を理解する方法論。
(*3)VRIO(value,rarity,inimitability,organization)・・・価値、稀少性、模倣困難性、組織についての問いからなるフレームワーク。

 

No.126 「文明の旅」

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森本 哲郎(著)「文明の旅―歴史の光と影」

初版は1967年、古典に分類してよい本かもしれません。
森本哲郎(1925-)氏が1963年から1965年にかけて、朝日新聞の特派員として旅した世界を、味わい深い文章で綴る名著です。
著者の旅は、アルジェリアのオランから始まり、古代の都バビロン、ヨルダンの赤い都ペトラ、ギリシャ、エジプトを経て、アフリカ、インド、ヨーロッパ各地におよびます。
かつて栄華を極めた地域の多くが、年月とともに変容した姿で著者を迎えます。
サブタイトルの「歴史の光と影」は、かつての繁栄(光)と現在の姿(影)を示しています。
単なる紀行文ではなく、その土地の歴史に思いを巡らせ、文明や人間の営みに対しての深い思索が展開されています。
1960年代といえば、まだ海外旅行もめずらしい時代でした。必然的に、旅への思い入れも深くなります。
著者の新聞社特派員(当時)という肩書から推察されるような、ジャーナリスティックな雰囲気は感じられません。
旅の出来事を伝えながら、過去に思いを馳せ、さまざまな文献を引用し、歴史とは何かを考えさせてくれます。しめくくりはニーチェの引用となっています。
誠実で表現力に富んだ文体を通して、本書が出版された40年前の時代の雰囲気も伝わってきます。
観察、内省、表現・・・精神の豊穣な時代でした。

絶版ですが、オークションや古書店で入手可能です。

ジェリー・ポラス,スチュワート・エメリー,マーク・トンプソン(著),宮本 喜一(訳)「 ビジョナリー・ピープル」(単行本)

長期にわたり成功を収めている人々へのインタビューから、その成功の要因を抽出し体系化しようと試みた書です。
邦訳タイトルの「ビジョナリー」は、ポラスの前著作「ビジョナリー・カンパニー」を意識したものですが、本書の原題は"SUCCESS BUILT TO LAST  Creating a Life that Matters"となっています。意味のある人生を創造しながら永続的な成功を達成する、といったところでしょうか。
著者は、20年以上の経歴を有する成功者を世界中から200人選び出し、10年にわたってインタビューを重ね、成功の要因を探ります。
一人ひとりの人間像を浮き彫りにするのが目的ではないようで、「会話の中に出てきた幅広い話題を21のカテゴリーに分類しながら、行動と思考に関してよく表れるパターンを見つけ出そうとした」ものです。(序章 P22より)
つまり、成功者の事例を収集し、回帰分析など統計手法を活用しながら、成功につながる要因を一般化しパターン化しようという、理論的なアプローチの学術書であり、一般的な人物伝の書とは趣を異にしています。
内容は、情熱と意義、思考スタイル、行動スタイルの3部に分かれており、これらの成功要因について著者の見解が展開され、一人ひとりへのインタビュー内容が断片的に紹介されています。

 

No.124 「マネーはこう動く」

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藤巻 健史(著)「マネーはこう動く―知識ゼロでわかる実践・経済学」(単行本)

経済の仕組みについて、初めて学ぶ人たちを念頭にわかりやすく解説している本です。
内容は、日銀の機能から、日本経済と財政の現状、金利、為替、経済政策、株と不動産マーケットなど多岐にわたり、マクロ経済の仕組みをざっくりと学ぶことができます。
資産の運用に関して、著者の考えは長期固定で借入をして不動産やアメリカ株などに投資するというものです。もちろん「伝説のディーラー」藤巻氏の意見といえども、鵜呑みにしていいものではありませんが。
多くの人がレビューや書評を著しており、サブプライム問題の影響や最近の経済動向を予測できなかったことに批判的な意見も多いようです。
しかし、現代経済の仕組みを理解するとともに、個人資産の運用について考えるきっかけを与えてくれるという意味では、一読に値する本だと思います。

 

No.123 「賑わい鳥と閑古鳥」

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島 康二朗(著)「賑わい鳥と閑古鳥 ―「観光地格差」時代の勝ち残り戦略」(単行本)

かつて栄えた観光地の多くが没落していくなかで、安定した集客を誇っている観光地もあります。
本書は、竹富島(沖縄県)、乳頭温泉郷(秋田県)、黒川温泉(熊本県)、妻籠(長野県)の4つの観光地を取り上げ、それらの繁栄のカギを探ったものです。
著者の本職は歯科医で、「歯内療法」という専門分野でのベストセラーも著しているということです。
序章で述べられているように、高度経済成長からバブル景気まで、旅館・ホテルの大型化が進み、やがて集客に苦慮するようになりました。過去に行った設備投資が負担となり、稼働率を高めるために必死になっているのが実態です。
一方で、紹介されている4ヶ所の観光地は、予約がとれないほど繁栄しています。
これら観光地の歴史や人気の秘密、人や組織の努力などが解説され、旅行者を引きつける要因が解きあかされています。
「竹富島・・・永遠に残された懐かしい沖縄の原風景と世界的に比類のない美しい海」
「乳頭温泉・・・七湯に漂う懐かしい湯治場風景と美しい秘湯情緒」
「黒川温泉・・・全宿参加の入湯手形による露天風呂巡りと美しく懐かしい温泉街風情」「妻籠・・・永久的に残された懐かしい江戸の宿場景観と美しい深山風景」
(第五章 四つの観光地を隆盛に導いたもの より)
そして共通する要因として、「人びとの価値観と符合している」こと、「どこにも類がない」こと、「環境・景観の保全」と「経済的自立」を両立させていること、などを指摘しています。

 

織田浩一,高広伯彦,須田伸(著),湯川鶴章(編)「次世代広告テクノロジー」(単行本)

インターネットの拡大、ウェブ2.0への移行、携帯電話の普及などを背景に、広告の最前線が激変していることを伝えてくれる本です。
ケータイ世代とそれ以外の世代では、メディア消費の形が革命的に違ってきています。
日常の風景でいえば、電車のなかで新聞・雑誌を読む世代と、ケータイの画面を見つめ続ける世代の違いといってもよいかもしれません。
情報収集やコミュニケーションをケータイで間に合わせ、パソコンさえ触らない世代も増加しています。
このような情報収集と利用の革命的な変化により、テレビや雑誌広告が次第に力を失い、代わってネット広告や、検索連動型広告、ゲーム内広告など、いままでになかった広告手法が登場し、日々変化している実態が明らかにされています。
内容は、オンライン広告業界の著名人3人による講演を元に書き起こしたものです。
Part1では、3人がそれぞれの立場から広告の現場を語っています。
消費者がハードディスクレコーダーなどを使いこなすことにより情報をコントロールし始めていることや、ウェブ2.0環境のCGM(*1)の台頭により、クチコミの影響が大きくなっていること。その結果、消費者はもはや受動的に情報を受け取る存在ではなくなっており、「より精度を上げたターゲティング」、「クチコミマーケティングの強化」、「広告のエンターテインメント的価値を高める」ことが急務となっているとのことです。
「Googleに勤める広告マン」は、AdWords/AdSenseの仕組みを詳しく語っています。例えば、スポンサーサイトへの掲載順は、単純にキーワード入札金額の高さによって決まるわけではなく、広告のクリック率を加味した数式によって決まるということ。
したがって、高い入札金額を払えない中小企業であっても、文面を工夫してクリック率を高めれば上位に表示される可能性がでてきます。
また、SNSやブログなどのソーシャルメディアの影響力の拡大と、その問題点、さらに業界による自主的な制度の整備の必要性についても触れられています。
Part2では、ゲーム内広告、コンテンツ連動型広告、行動ターゲティング広告、モバイルSEM、LPO(*2)などの最先端の広告の仕組みやテクノロジーが概説されています。
本書を読めば、マーケティングの手法がここまで変わってきているのか、という驚きを禁じ得ないでしょう。
ワントゥーワン・マーケティングを実現できる環境が、ウェブを核とする技術により整備され、実働している姿が俯瞰できます。
(*1)2)Consumer Generated Media・・・消費者生成メディア
(*2)Landing Page Optimization・・・ランディングページ最適化

 

ジョン・マクミラン(著),瀧澤 弘和,木村 友二 (訳)「市場を創る―バザールからネット取引まで」(単行本)

ゲーム理論の研究で有名な経済学者のジョン・マクミラン(1951-2007)が、現代の「市場」の本質を解き明かしながら、市場が有効に機能するための設計の重要性について述べたものです。
著者は「バザールからネット取引まで」、さまざまな例をあげて、市場設計の重要性を説いていきます。
そして、うまく機能する市場のプラットフォームが持つ要素として、「情報がスムーズに流れること」、「人々が約束を守ると信頼することができること」、「競争が促進されていること」、「財産権が保護されているが、過度に保護されていないこと」、「第三者に対する副作用が抑制されていること」の5点をあげています。
参考になった内容をいくつか紹介します。
・バザールで顕著なように、商品の品質や価格などを調べる「情報探索」にはコストがかかり、それが買い手と売り手の行動に大きく影響していること。
・特許権や著作権については、厳格すぎずゆるやかすぎないというバランスが必要とのこと。政府による特許の買い上げ制度や、トーナメント方式と言った新たな制度設計の視点も考慮すべき。
・市場経済においても、企業内部の取引(賃金支払も含む)は集権的・計画経済的なものとして存在しており、また株式会社の仕組みでは経営と所有が分離されている。そのため経営者のモラル如何では、不正や非効率が発生する可能性を内在している。それでも経済全体が有効に機能しているのは、経営者の行動にインセンティブを与える、株主の圧力・法律・公的規制・金融システムなどの外部性によるところが大きい。
経済の構造改革や市場原理の拡大は大きな論点ですが、議論の前提として「市場」の理解が不可欠なことは言うまでもありません。
「市場だけに任せておいては失敗することもある.市場の利益を完全なものにするには、ルール,慣習,制度による支えを必要とする.」(第1章 唯一の自然な経済P19 より)
「市場は富を生み出し,貧困を緩和する。しかし,市場には限界があり,できないこともある。・・・市場はうまく設計されたときにのみ,うまく機能する」(第17章 市場の命令P328-329より)
市場経済が最も有効な経済システムであることを検証しながら、決して市場を礼賛するのではなく、その限界を補うためのバランスのとれた市場設計が重要であることを教えてくれる本です。

 

ジェラルド・M・ワインバーグ (著),伊豆原 弓(訳)「ワインバーグの文章読本」(単行本)

「この世には2種類の本がある・・・
1 読んで楽しく何かを学べる本
2 睡眠薬がきかないときに使える本 」(第11章 文章を1割けずる より)
ワインバーグの言葉を借りれば、この本は間違いなく「1」に属するものです。
「スーパーエンジニアへの道」(No.100で紹介)など、数多くの著書のあるワインバーグが、文章作成の奥義を教えてくれます。
本書はワインバーグの学生時代の思い出から始まります。
大学の国語の授業は役に立たなかったが、ひとりの教師との出会いが著者としてのワインバーグ形成に大きな影響をあたえたこと、そして「興味のないことについて書こうと思うな」という最初のルールが示されています。
それから、「自然石構築法」という、アイデアを探索し文章として組み立てる方法が語られています。読んで楽しい本を書くには、何よりも良い材料をたくさん集めることが大切なことがわかります。
結論で、ふたたび「興味のないことについて書こうと思うな」というルールが提示され、「頭の中の理屈ではなく、心の中のエネルギーに導かれるままに書いてほしい」というメッセージで締めくくられています。
ワインバーグの文章には、ユーモアや、比喩と逆説に満ちた独特の雰囲気がありますが、読者を立ち止まらせ、自分の問題として深く考えさせる力を持っています。


 

ファシリテーションとは、「集団による問題解決、アイデア創造、合意形成、教育・学習、変革、自己表現・成長など、あらゆる知識創造活動を支援し促進していく働き」のことです(日本ファシリテーション協会のWebサイトより)。
この本は、「プロセス共有」と「参加促進」によって、会議を効果的に進行するためのファシリテーション・スキルについて、豊富な事例に基づいて解説したものです。
タイトルにあるように、議論のまとめ方と、ホワイトボードや大判用紙に整理し、まとめあげるための図解の技術を中心に、具体的ノウハウが満載されています。
経験を積んだコンサルタントであれば既知の内容が多いかと思いますが、意見の要約の仕方、ホワイトボードやマーカーなどの道具の使い方、図解の手法、色の使い分けなどが体系的にまとめられており、ファシリテーションについての基本を一通り学ぶことができます。
本書を読んで、自分のクセや弱い部分に気づかされました。
特に意見の集約法については、「キーワードを活かす」、「意訳や勝手な解釈をしない」といったポイントが参考になりました。

 

No.118 「哲学からのメッセージ」

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木原 武一 (著)「哲学からのメッセージ」(単行本)

この本は難しい哲学書ではなく、7人の哲学者とその言葉を紹介しながら、哲学の効用や生き方を考えようというものです。
著者は「大人のための偉人伝」(No.15で紹介)などを著しており、人物伝には定評があります。
各章に登場する哲学者には枕詞がついており、その生き方や考えを端的にあらわしています。
「理性を耕す人 − カント」
「知のデモクラシー − デカルト」
「男らしい生き方 − ニーチェ」
「メルヘンとしての哲学 − キルケゴール」
「現代の幸福論『パンセ』 − パスカル」
「理性が世界を支配する − ヘーゲル」
「裁かれる哲学者 − ソクラテス」
この本で著者は、「哲学の効用をあきらかにする」ことを念頭に置き、そのためには哲学者の考えを理解したうえで、自分の頭で考えることが不可欠であると指摘しています。
「哲学を理解するとは、そのメッセージをつかむことである」・「哲学は人間学である」(いずれもカントの章より)
教養や知識として哲学を理解するというアプローチではなく、哲学者のいわんとする肝心のこと(メッセージ)を聞き取り、何を感じたか、どこに感動したかということが何より大切であるということです。

No.117 「生物と無生物のあいだ」

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福岡 伸一 (著)「生物と無生物のあいだ」(講談社現代新書)

分子生物学という、最先端の科学のおもしろさを伝えてくれる本です。
テーマは、生命とは何か、生物を無生物から区別するものは何かということです。
著者は、「生命とは自己複製を行うシステム」という通説に満足せず、動的平衡論という視点から生命の本質に接近します。

プロローグの文章を読んだだけで、著者の豊かな感性や人間性がうかがわれ、一般の科学書とは異なる詩的な雰囲気が伝わってきます。

「川面を吹き渡ってくる風を心地よく感じながら、陽光の反射をかわして水のなかを覗き込むと、そこには実にさまざまな生命が息づいていることを知る。水面から突き出た小さな三角形の石に見えたものが亀の鼻先だったり、流れにたゆたう糸くずと思えたものが稚魚の群れだったり、あるいは水草に絡まった塵芥と映ったものが、トンボのヤゴであったりする」(プロローグ より)

著者は、DNAの自己複製の仕組みをわかりやすく説明したかと思うと、研究者の姿を活写し、そこに自らの研究生活を重ねて語るというように、読者をさまざまな世界に連れていきます。

あたかもDNAの二重らせん構造のように、分子生物学の解説と研究者の人物伝が美しく重なり合います。
このような変化に富んだ展開により、最先端の科学を扱いながらも、読者を飽きさせずに引き込む効果をあげていると思います。
時間の経つのを忘れて一気に読まされてしまう本です。

 

No.116 「ローマ人への20の質問」

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塩野 七生 (著)「ローマ人への20の質問」(文春新書)

「ローマ人の物語」などで知られる著者が、Q&A形式でローマにまつわるさまざまな疑問や批判に応え、ローマの魅力を多くの人に伝えようと試みた書です。

「質問1 ローマは軍事的にはギリシャを征服したが、文化的には征服されたとは本当か?」
「質問5 宿敵カルタゴとの対決について」
「質問6 古代のローマ人と日本人との共通点について」
このような形式で、古代ローマにまつわる話題が展開されており、興味のある部分だけを拾い読みすることもできます。

内容は、古代ローマ人の生活、文化、政治、経済に及びますが、特にポエニ戦役への言及は詳細です(ちなみに「ローマ人の物語」では3〜5巻がハンニバル戦記となっています)。
著者の古代ローマとローマ人への思い入れの深さが、随所に滲み出ています。
しかし、手放しでローマを賛美しているわけではなく、できるだけ史実のディテールに基づいて、本当のローマの魅力を伝えようとしている姿勢が感じられます。

世界史の授業でも古代ギリシャ・ローマ時代はひとつのハイライトになっていますが、その詳細を知ると、後世に与えた影響の大きさがより深く理解できます。

ジョン・ウッド(著),矢羽野薫 (訳)「マイクロソフトでは出会えなかった天職 - 僕はこうして社会起業家になった」

マイクロソフト社の幹部としてまさに世界を股に掛ける毎日を送っていた著者が、休暇をとって訪れたネパールで、教育を受けたくても学校が足りず、本を読みたくても旅行者の残していった本がわずかしかないという、途上国の教育の現実に直面します。

「あなたはきっと、本を持って帰ってきてくださると信じています」という現地の校長との約束を果たすために、著者はさっそく知り合いにメールを発し、行動を開始します。
そして将来の約束されたマイクロソフトを辞し、価値観の異なる恋人とも分かれ、社会起業家としての道を歩むことになります。

「物質的な富があるかどうかは関係ない。本当に大切なのは−その富を使ってなにをするかだ」(第2章 ロウソクの下でアイデアが燃え上がる より)
約束通り、著者は本を携えてネパールを再訪します。
出迎えの人々との交流の場面では、著者の喜びが伝わってきて胸が熱くなります。

本書を読むと、著者の熱意と行動力に圧倒されます。(*1)
設立したNPO「ルーム・トゥ・リード」が、2007年6月までに建設した学校は287校、図書館3,540カ所、届けた本は140万冊にのぼるということです。
「できないではなく、どうすればできるか」を考えること、それが著者の行動の基本になっています。

そして、マイクロソフト時代の経験・ノウハウを十分に活かして、成果につながるNPOのビジネスモデルを構築したことに感心します。
たとえば、活動資金は篤志家の寄付に拠るところが多いのですが、寄付した人が自分の寄付金が何に使われたのかが分かるように、建設した学校の命名権を付与するという仕組みを取り入れています。

また「NPOのマイクロソフトをめざす」という章では、結果最重視の姿勢、行動の重視、人を攻撃しない、具体的な数字に基づく、忠誠心、といったマイクロソフト文化を、ルーム・トゥ・リードの運営に適用している著者の経営哲学が紹介されています。

ほとんどの人にとっては、著者のように、安定した仕事を辞めて社会貢献の道に進むことは困難でしょう。
しかし、このように生きている人もいると知ることで、何かが変わります。
この紹介文に興味を持った方は、ぜひ著書を購入して読んでほしい本です(それによって著者の活動に協力することにつながります)。

「節目の年齢に対する不安は、自分の人生にどれだけ満足しているかに関係するんだろうね。自分のやっていることが大好きで、いい友人と家族に囲まれていたら、四〇歳も五〇歳も六〇歳も、ただの数字にすぎない。不安になる理由なんかないよ」(エピローグ 人生の次の章へ より)。

(*1)原題は、"Leaving Microsoft to Change the World : An Entrepreneur's Odyssey to Educate the World's Children。原題のほうが著者の思いがストレートに表現されていますね。

ピエトラ・リボリ(著),雨宮寛・今井章子(訳)「 あなたのTシャツはどこから来たのか?―誰も書かなかったグローバリゼーションの真実」(単行本)


綿花からTシャツができるまでの過程を丹念に追いかけることによって、市場経済の現実の姿を伝えようとした著作です。

著者はマイアミのとある店で5ドル99セントのTシャツを手にし、タグを頼りに販売者から製造メーカーへ、さらに原糸から綿花へと辿ったところ、行き着いた先はアメリカの綿花生産地でした。
Tシャツの一生を追いかける物語は、ここからスタートします。

1〜3章では、綿花生産を支配しているのはアメリカの綿花生産構造について、かつての奴隷労働に依存した南部の実態と、その後の中西部への拡大と機械化の進展など、200年の歴史が説明されます。
保護政策の存在と、綿花生産に特化した社会・経済システム、イノベーションなどの歴史が丁寧に綴られています。

4〜6章では、綿は中国に上陸し、舞台は上海の衣料品工場に移ります。
繊維・衣料品製造を席巻している中国の、低賃金・長時間労働の実態がルポルタージュされています。また繊維工業の中心地が、欧米から日本へそして中国へと変遷してきた歴史が説明されます。

7章では、米国に押し寄せる中国製衣料品と、政治力を使って輸入を阻止しようとする米国の繊維・衣料品産業の戦いが描かれています。

そして最後に、Tシャツのリサイクル市場が紹介され、Tシャツを巡る旅が終わります。

タイトルからは、グローバリゼーションに対する批判書であるかのような印象を受けますが、著者の真意は異なります(原題は、"The TRAVELS of a T-SHIRT in the GLOBAL ECONOMY : An Economist Examines the Markets,Power,and Politics of World Trade")。

リサイクル市場を除けば、綿花がTシャツとして販売されるまでの運命を支配しているのは、保護政策や市場抑制策などの政治的な力だと結論づけています。

「市場競争の将来が明るいものか、悲惨なものかという問題は、少なくともわたしのTシャツの物語においてはどこか的外れなものだ。なぜなら、競争市場の功罪が何であれ、世界をめぐったわたしのTシャツは自由市場とはほとんど縁がなかったからである・・・Tシャツの一生の大部分は、自由競争市場に対する政治的反発であり、政治による保護であり、政治による介入であった」(結論316〜318ページ より)

 

No.113 「ウェブ時代をゆく」

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梅田 望夫 (著)「ウェブ時代をゆく ─ いかに働き、いかに学ぶか」 (ちくま新書)

本書は「ウェブ進化論」の続編(*1)という位置づけですが、サブタイトルが示すように、ウェブが日常化した時代をいかに生きるかという、著者からの問いかけの書です。

1975年から2025年までの50年間を、産業革命をしのぐ歴史の大変革期ととらえ、この時代を一人ひとりがどのように生き抜けば良いのか、大きな気づきや示唆を与えてくれます。

「未来は能動的に変えることのできるものだか、そのエネルギーはオプティミズムが支えるのだ」(序章14ページ より)
「『もうひとつの地球』を健全に進化・発展させていくためには、より良く生きることへの意欲を持ち何らかの分野に秀でた人が、『パブリックな意識』を強く持ってそこに関与していくことである」(序章33ページ より)
「『もうひとつの地球』が、人生のインフラになるこれからの時代に、与えられる自由や利便性の代償として、私たちは『新しい強さ』を身につけていく必要があるのだ」(第1章52ページ より)

このような著者の提言は、ウェブの多様性・情報の膨大さ・変化の速さを前にして「では何をすればいいのか」と戸惑っている人にとって、具体的な指針となるものです。
これに対して、ウェブは儲かるのか、玉石混淆で危険が多いのではないかといった問題の立て方では、ウェブ時代を生き抜く視座は得られないということです。

また、好きなことに没頭することと生活の安定をトレードオフととらえることは、ウェブ以前の社会の価値観であるとのこと。少なくとも先進国においては、ウェブに自分の得意分野で参加することで一定の生活が維持できる可能性が開けました。(*2)
自分が好きなことが何かを見つけ育てる方法として、「ロールモデル思考法」を紹介していますが、これは「ある対象に惹かれた」という直感から始まるそうです。(*3)

以上のような著者が考えるウェブ社会の方向性と、そのなかで生き抜くための理念には多くの点で共感を覚えます。
著者の根底にあるオプティミズムを支えているのは、人間の良識への信頼です。
その信頼の上に立ち、本書が発しているメッセージは、志を持ち、自分の好きなこと、得意なことで社会に参加すれば、社会はより良くなるし自分の人生も豊かになるという確信に近いものでしょう。

(*1)本書の帯には「ウェブ進化論 完結編」というコピーがありますが、ウェブのベータ版志向という性格からすれば、これで完結ではないと思います。
(*2)懸念されることがあるとすれば、インターネットの基幹通信回線はほとんど個人の介入できない領域だということです。何らかの理由で通信回線が遮断されれば、インターネットは機能しなくなります。
(*3)同様のことを、フランチェスコ・アルベローニが「借りのある人、貸しのある人」(No.5で紹介)で述べています。「どんな時代でも、どんな社会的環境でも、・・・私たちはだれしもつねに私という唯一の人間なのだから、自分にいちばん向いている、自分だけの道を見つけなければならない。・・・私たちは、なりたい、あるいは、なれるかもしれないと思っているような人に出会ったときには、ねたみなどは感じない。それどころか、魂を奪われるような賛嘆の念に満たされる」(同著「自己を実現できる人」168〜170ページ より)
木全 賢 (著)「デザインにひそむ〈美しさ〉の法則」(ソフトバンク新書)

工業デザイナーの著者が、身近な工業製品を引き合いに出しながら、美しい工業デザインを創る要素について解説したものです。

最初にデザインの基本として、多くの人が美しいと感じる「黄金比(縦横比が 1:1.618・・・)」や「白銀比(1:1.414・・・)」について説明され、ここからデザインの奥深い世界が始まります。
続く各章では、シンプルさの法則、使いやすさの法則、工業製品のデザインの手順、地域・時代で異なる美意識、ユニバーサルデザインについて、実際の製品を例に解説されています。

例えば、名刺、クレジットカード、新書、トランプ、タバコの箱、iPod、IXY(デジカメ)などは、縦横比が黄金比の長方形で、A版・B版の紙やハローキティなどのアニメキャラクターの多くは白銀比でデザインされているということです。
身近な製品に、このようなデザインの法則性があるとは知りませんでした。
また、角や頂点などディテールの処理にも、多くのデザイン上の工夫がなされていることがわかります。

デザインの善し悪しは見た目の問題だけではなく、デザインの良い自動車であれば運転も丁寧になるというように、製品を使用する心理にも影響するとか。
その意味では、デザインとは、製品の機能の一部であるといえるでしょう。
文章は非常にわかりやすく、工業デザインについての知識が全くない人でも楽しく読めると思います。
読んだ後は、ふだん何気なく使っている製品を手にとって、定規を当ててみたくなります。

寺島実郎 (著)「二十世紀から何を学ぶか(下)一九〇〇年への旅 アメリカの世紀、アジアの自尊」(新潮選書)

「二十世紀から何を学ぶか(上) 欧州と出会った若き日本」(No.13で紹介)の続編で、さまざまな人物を軸にして、二十世紀のアメリカ、アジア、日本の関わりを描いた「歴史エッセイ」です。
冒頭で、本書の執筆動機と著者の歴史認識に対する基本的な態度が表明されています。

「漠然としたイメージや受け身の情報に基づいて歴史を受け止めるのではなく、『実事求是』の精神で、自らの足と眼を使って、歴史の現場に立ち、文献と資料によって事実を確認し、『自分にとっての二十世紀の総括』を試みたものである」(はじめに より)

今回登場するのは、クラーク博士、ヘンリー・ルース、フランクリン・ルーズベルト、マッカサー、新渡戸稲造、内村鑑三、鈴木大拙、津田梅子、野口英世、ガンディー、孫文、魯迅、周恩来など、多彩な人物です。これらの人物が二十世紀をいかに生き、歴史にどのような影響を及ぼしたのか、興味深く綴られています。

歴史を前にすれば、個人の存在や影響力はたかが知れているように思われます。
しかし、これらの人々の果たした役割の大きさを知ると、決して個人は無力ではないという感慨が湧いてきます。

テレビ番組などで解説者として活躍する寺島氏は、その誠実な姿勢、論理的で説得力がありしかも分かりやすい論評が印象的ですが、本書からも同じような読後感を覚えます。
そして、基礎的な資料を自分の目で十分に読み込み、自分の頭でよく考えたうえで、話したり書いたりする態度が重要であることを教えてくれます。
上巻では巻末に膨大な参考文献リストが付いていましたが、下巻ではWebで公開する形となっています(
http://www.shinchosha.co.jp/book/603582/)。今回もその膨大さに圧倒されます。


 

No.110 「道をひらく」

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松下幸之助(著)「道をひらく」(文庫)

新年にふさわしい本として、松下幸之助氏の「道をひらく」を紹介します。

「経営の神様」として名高い松下幸之助(1894-1989)氏が、雑誌PHPに連載したエッセイをまとめたもので、初版は1968年です。
現在でもビジネス書のベストセラーにランクされるほどの定番的な著作です。
「道をひらく」には121篇が、「続 道をひらく」には116篇が収録されています。

まえがきで、「その一篇一篇は、時にふれ折りにふれての感懐をそのまま綴ったものであるが、この中には、身も心もゆたかな繁栄の社会を実現したいと願う私なりの思いを多少ともこめたつもりである」と述べています。
折々の感慨や、様々な困難を切り抜けるための心構えが淡々と語られており、経営哲学の書であり、人生論でもあります。

「年があらたまれば心もあらたまる。心があらたまればおめでたい。正月だけがめでたいのではない。心があらたまったとき、それはいつでもおめでたい。・・・あらたまった心には、すべてのものが新しく、すべてのものがおめでたい。・・・」(「日々是新」より)

文章は平易で分かりやすく、内容も至極当たり前のことに感じられますが、全体を貫いているのは、素直な心の大切さと、「企業は事業を通じて社会に貢献すべきである」との使命感です。

私がこの本に出会い、毎日読み返していたのは受験生時代でした。
経営の神様は、受験の神様でもあったのですね。

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