木原 武一 (著)「哲学からのメッセージ」(単行本)
この本は難しい哲学書ではなく、7人の哲学者とその言葉を紹介しながら、哲学の効用や生き方を考えようというものです。
著者は「大人のための偉人伝」(No.15で紹介)などを著しており、人物伝には定評があります。
各章に登場する哲学者には枕詞がついており、その生き方や考えを端的にあらわしています。
「理性を耕す人 − カント」
「知のデモクラシー − デカルト」
「男らしい生き方 − ニーチェ」
「メルヘンとしての哲学 − キルケゴール」
「現代の幸福論『パンセ』 − パスカル」
「理性が世界を支配する − ヘーゲル」
「裁かれる哲学者 − ソクラテス」
この本で著者は、「哲学の効用をあきらかにする」ことを念頭に置き、そのためには哲学者の考えを理解したうえで、自分の頭で考えることが不可欠であると指摘しています。
「哲学を理解するとは、そのメッセージをつかむことである」・「哲学は人間学である」(いずれもカントの章より)
教養や知識として哲学を理解するというアプローチではなく、哲学者のいわんとする肝心のこと(メッセージ)を聞き取り、何を感じたか、どこに感動したかということが何より大切であるということです。
梅田 望夫 (著)「ウェブ時代をゆく ─ いかに働き、いかに学ぶか」 (ちくま新書)
本書は「ウェブ進化論」の続編(*1)という位置づけですが、サブタイトルが示すように、ウェブが日常化した時代をいかに生きるかという、著者からの問いかけの書です。
1975年から2025年までの50年間を、産業革命をしのぐ歴史の大変革期ととらえ、この時代を一人ひとりがどのように生き抜けば良いのか、大きな気づきや示唆を与えてくれます。
「未来は能動的に変えることのできるものだか、そのエネルギーはオプティミズムが支えるのだ」(序章14ページ より)
「『もうひとつの地球』を健全に進化・発展させていくためには、より良く生きることへの意欲を持ち何らかの分野に秀でた人が、『パブリックな意識』を強く持ってそこに関与していくことである」(序章33ページ より)
「『もうひとつの地球』が、人生のインフラになるこれからの時代に、与えられる自由や利便性の代償として、私たちは『新しい強さ』を身につけていく必要があるのだ」(第1章52ページ より)
このような著者の提言は、ウェブの多様性・情報の膨大さ・変化の速さを前にして「では何をすればいいのか」と戸惑っている人にとって、具体的な指針となるものです。
これに対して、ウェブは儲かるのか、玉石混淆で危険が多いのではないかといった問題の立て方では、ウェブ時代を生き抜く視座は得られないということです。
また、好きなことに没頭することと生活の安定をトレードオフととらえることは、ウェブ以前の社会の価値観であるとのこと。少なくとも先進国においては、ウェブに自分の得意分野で参加することで一定の生活が維持できる可能性が開けました。(*2)
自分が好きなことが何かを見つけ育てる方法として、「ロールモデル思考法」を紹介していますが、これは「ある対象に惹かれた」という直感から始まるそうです。(*3)
以上のような著者が考えるウェブ社会の方向性と、そのなかで生き抜くための理念には多くの点で共感を覚えます。
著者の根底にあるオプティミズムを支えているのは、人間の良識への信頼です。
その信頼の上に立ち、本書が発しているメッセージは、志を持ち、自分の好きなこと、得意なことで社会に参加すれば、社会はより良くなるし自分の人生も豊かになるという確信に近いものでしょう。
(*1)本書の帯には「ウェブ進化論 完結編」というコピーがありますが、ウェブのベータ版志向という性格からすれば、これで完結ではないと思います。
(*2)懸念されることがあるとすれば、インターネットの基幹通信回線はほとんど個人の介入できない領域だということです。何らかの理由で通信回線が遮断されれば、インターネットは機能しなくなります。
(*3)同様のことを、フランチェスコ・アルベローニが「借りのある人、貸しのある人」(No.5で紹介)で述べています。「どんな時代でも、どんな社会的環境でも、・・・私たちはだれしもつねに私という唯一の人間なのだから、自分にいちばん向いている、自分だけの道を見つけなければならない。・・・私たちは、なりたい、あるいは、なれるかもしれないと思っているような人に出会ったときには、ねたみなどは感じない。それどころか、魂を奪われるような賛嘆の念に満たされる」(同著「自己を実現できる人」168〜170ページ より)
木全 賢 (著)「デザインにひそむ〈美しさ〉の法則」(ソフトバンク新書)
工業デザイナーの著者が、身近な工業製品を引き合いに出しながら、美しい工業デザインを創る要素について解説したものです。
最初にデザインの基本として、多くの人が美しいと感じる「黄金比(縦横比が 1:1.618・・・)」や「白銀比(1:1.414・・・)」について説明され、ここからデザインの奥深い世界が始まります。
続く各章では、シンプルさの法則、使いやすさの法則、工業製品のデザインの手順、地域・時代で異なる美意識、ユニバーサルデザインについて、実際の製品を例に解説されています。
例えば、名刺、クレジットカード、新書、トランプ、タバコの箱、iPod、IXY(デジカメ)などは、縦横比が黄金比の長方形で、A版・B版の紙やハローキティなどのアニメキャラクターの多くは白銀比でデザインされているということです。
身近な製品に、このようなデザインの法則性があるとは知りませんでした。
また、角や頂点などディテールの処理にも、多くのデザイン上の工夫がなされていることがわかります。
デザインの善し悪しは見た目の問題だけではなく、デザインの良い自動車であれば運転も丁寧になるというように、製品を使用する心理にも影響するとか。
その意味では、デザインとは、製品の機能の一部であるといえるでしょう。
文章は非常にわかりやすく、工業デザインについての知識が全くない人でも楽しく読めると思います。
読んだ後は、ふだん何気なく使っている製品を手にとって、定規を当ててみたくなります。