2007年12月アーカイブ

No.109 「ゆたかな社会」

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J・K・ガルブレイス (著),鈴木 哲太郎 (訳)「ゆたかな社会」(単行本)

ガルブレイスの代表作で、初版は1958年と、もはや古典の域に達した著作です。

私の手元にあるのは第三版(四刷)で、1983年発行のものです。久しぶりに箱から出したら、表紙を包んでいるパラフィン紙がすっかり褪色していました。

購入したのは大学を卒業して社会に出た頃です。なぜこの本を読もうと思ったのかは定かではありませんが、社会で働くようになり考えることがあったのかもしれません。

ガルブレイスは序論のなかで、本書の執筆の動機を語っています。

「私は、われわれが、公的サービスをおろそかにし、生産増加の一般的な治療的な力にこれほどまでの信頼を寄せることによって、深刻な社会的な病をおびきよせているのだ、という確信に貫かれてきた」

この本は、ガルブレイスが第二次対戦前後に傾倒したケインズ主義から、彼自身を引き離す努力の結実ともいえます。

ガルブレイスが取り上げたテーマは、「ゆたかな社会」の背後に厳然として存在する「貧困」の問題です。当初彼が考えていたタイトルは「なぜ人々は貧しいのか」というものでした。

多くの経済学者がいわば放置してきた「貧困」を、ガルブレイスは看過できなかったのです。

内容は多岐に渡りますが、経済学の専門書としては比較的読みやすいほうです。第二章「通年というもの」がやや抽象的で、独特の言い回しを理解するのに骨が折れますが、ここを突破すればあとは比較的楽しんで読めると思います。

昨今の流行語となった格差社会を考えるうえでも、多くの示唆を与えてくれます。

現在入手しやすいのは、2006年刊の「ゆたかな社会 決定版」 (岩波現代文庫)です。

No.108 「人間ゲーテ」

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小栗 浩(著)「人間ゲーテ」(岩波新書)

長年のゲーテ研究の成果として、「人間」としてのゲーテの姿に迫った興味深い著作です。ゲーテの生涯を、様々な作品や女性との関わりを通して活写しています。

著者の言葉を借りれば、「ゲーテが、十八世紀という時代のなかで育まれ、戦い、そして時には妥協しながら、いかに生きるべきかに工夫をこらしていった姿を、私なりに掘り出してみたい」という狙いで書かれたものです。

第一章では、万能の天才と評されるゲーテのような人間が、複雑化・細分化した現代においても存在しうるのかという問題提起がなされます。

第二章では、ゲーテの受けた教育と人格形成の背景や、ゲーテを語る際に忘れてならない様々な女性との恋愛が解説されています。

ファウストの「永遠の女性が我らを引いてゆく」という文章が有名ですが、ゲーテは74歳になっても、17歳の少女に恋をしたという心の若い人物でした。

第三章以降では、官吏でもあったゲーテが革命の時代をいかに生きたのかを紹介し、またファウストなどの代表作を紹介しながら詩人としてのゲーテの魅力を分析しています。

海津 ゆりえ (著)「日本エコツアー・ガイドブック」(単行本) 

 

単なる観光ガイドブックではなく、各地のエコツーリズムを育て上げた人に焦点を当て、その人物の生き方を通じて各フィールドを紹介したものです。

登場する地域と人物は次の通りです。

1.南大東島:沖縄県(宮城克行)、2.西表島:沖縄県(石垣金星・石垣昭子)、3.東村:沖縄県(山城定雄)、4.屋久島:鹿児島県(松本毅)、5.阿蘇:熊本県(坂元英俊)、6.熊野古道:三重県(橋川史宏)、7.京都:京都府(多賀一雄)、8.美山:京都府(伊藤五美)、9.富士山麓:静岡県(広瀬敏通)、10.軽井沢:長野県(南正人)、11.小笠原:東京都(渋谷正昭)、12.裏磐梯:福島県(伊藤延廣)、13.遠野:岩手県(徳吉英一郎)、14.二戸:岩手県(小保内敏幸)、15.大雪山他:北海道(高木晴光)、16.知床:北海道(松田光輝)。

これらの人々が、様々な経歴を経てエコツーリズムにであった半生や、各地域への深い愛情に根ざした活動について、紹介されています。

「毎日を一日、一日と暮らしていくこと。都会のように華やかなことなど何もないけれど、生きて死んでいくということのすべてが、この遠野にはある」(遠野:徳吉英一郎 より)

大自然の中のフィールドだけでなく、京都のサイクリングツアーや伊勢「おかげ横丁」と熊野古道なども登場します。

各章には、訪れる人のためのフィールドガイドが付されています。

関 満博,(財)日本都市センター(編) 「新『地域』ブランド戦略―合併後の市町村の取り組み」

 

 市町村合併で登場した新自治体における「地域ブランド」への取り組みについて、研究会(*1)の調査結果をまとめ、成功の要因を探ったものです。

地域ブランドや地域資源をテーマにした本は多数出版されていますが、市町村合併という構造変革から論じているところに編者の独自の視点があります。

平成の大合併により、市町村数は平成11年度末の3,229から平成18年度末には1,815まで減少しました。そして広域的な自治体が誕生するとともに、地域産業振興が重要な政策課題となっています。

編者によれば、合併市町村の多くは合併そのものに多大なエネルギーを費やし、地域振興というテーマは後回しになっているところが多いとのことです。

そして、競争力のある製造業が基幹産業となりうる自治体はごく一部であり、多くの自治体においては、農林水産物や観光資源などを核とした地域振興を図ることが求められているわけです。

事例として紹介されているのは次の7市町村です。

長崎県佐世保市、山梨県南アルプス市、山梨県甲州市勝沼町、京都府京丹後市、兵庫県篠山市、岐阜県多治見市、北海道函館市。

それぞれ、各市町村の商工担当者による事例の紹介に続き、研究会による解説・アドバイス(「ブランディング戦略のポイント」)が記されています。

市町村合併を機に、その地域内の多様な資源を統一的なイメージで売り出す傾向が見られますが、むしろ既存の地域資源を活かすことで市町村全体の魅力を高めていく方向が望ましいというのが、研究会の一つの結論です。

(*1)(財)日本都市センターが2006年に立ち上げた「地域ブランド戦略研究会」

泉 嗣彦 (著)「医師がすすめるウオーキング」(集英社新書)

 

生活習慣病の予防や治療にウォーキングが高い効果を上げることを、実際の検診データを元に解説し、生活の中に取り入れる方法を提唱した本です。

運動不足は自覚しているが、多忙を言い訳に結局は何もしないで1年が過ぎてゆく、そんな人(もちろん私のことです)に読んでほしい本です。

著者は消化器科の医師として働いた後、健康管理センターで数多くの生活習慣病予備軍を診た経験から、日常生活の中に運動を取り入れることが効果的であることを確信しました。

そして毎日プラス1000歩、歩くことを提唱しています。

ウォーキングに限らず、水泳や自転車、エアロビクスなどの有酸素運動が健康に役立つことは、30年前からいわれていました。

本書は、肥満、高血圧症、高脂血症、糖尿病といった生活習慣病に対し、有酸素運動が効果的であることを理論的に解説し、実際の検診データに基づいて証明しています。

No.104 「『新しい人』の方へ」

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大江 健三郎 (著), 大江 ゆかり (イラスト) 「『新しい人』の方へ」 (朝日文庫)

 

ノーベル賞作家の大江 健三郎氏が語った自伝的人生論です。週刊朝日に連載されたものが単行本化され、文庫版が本年10月に発刊されました。

「新しい人」とは、新約聖書のパウロの「エフェソの信徒への手紙」に出てくる言葉で、「敵意を滅ぼし、和解を達成する」人を意味しており、本書は中高校生世代が「新しい人」になってほしいという願いを込めて書かれたものです。

子供の時の父と母がいる情景や、溺れかかった時の出来事、イジメについて、ウソについて、恩師のフランス文学者渡辺一夫先生のこと、本をゆっくり読む法など、16のメッセージが、平易な語りかけるような文章で綴られています。

夫人が描いたイラストも見応えがあります。

あとがきで本書の執筆の経緯について、「人間らしい知恵を、子供と子供の魂を持ち続ける広い年齢層の人たちに向けて話す本にしたい」と語っています。

ロバート・C. フルフォード , ジーン ストーン (著),上野 圭一 (訳) 「いのちの輝き―フルフォード博士が語る自然治癒力」

 

米国の著名なオステオパシー医のロバート・C・フルフォード博士が、人生観と治癒観について語ったものです。

アンドルーワイルが「癒す心、治る力」のなかでフルフォード博士について一章を割いて、その卓越した主義を絶賛しています(No.55で紹介しています)。

本書では、オステオパシーの考え方や、運動や栄養など自己管理の秘訣、そして人生全般に関するフルフォード博士の智慧が語られています。

オステオパシーでは、出生時の最初の呼吸が悪かったり骨折などの外傷がトラウマのようにからだに残り、迷走神経が正しく働かなかったり、エネルギーの流れが阻害されたために病気になると考えます。

そしてそれらのショックの痕跡を、手技や器具を使って緩めることで、エネルギーの流れを取り戻し、自然治癒力を発揮させるということです。

呼吸の重要性についても語られています。

「人は呼吸したとおりの人になる」

こころとからだが切っても切れない関係にあること、人間の体はひとつの有機的なつながりを持っていること、細分化された現代医学と異なり、病気を治すためには全体論的なアプローチが必要だというのが博士の基本的なメッセージです。

人生に対する態度についても多くの示唆が得られます。

「無条件で、すすんで人にあたえるたびに、いのちが少しずつ輝きだす」

千葉 憲昭 (著)「カメラ常識のウソ・マコト」(ブルーバックス)

 

「オーディオ常識のウソ・マコト」などで知られる著者が、写真とカメラをより楽しむために知っておくべきことをまとめたものです。

フィルムを使ういわゆる「銀塩カメラ」からデジタルカメラへの移行期に必要となる知識に重点を置いた内容になっています。

原色・補色といった原理や画素記録の仕組み、フィルムカメラとデジタルカメラの違いや共通点、写真加工に必要になる基本的知識についてわかりやすく解説されています。

フィルムもデジタルも本質的な違いはない、フィルムも拡大してみれば粒子による記録であり、原理的にはデジタルであるという指摘は、目からウロコでした。

本書が書かれたのは2004年で、デジタルの優位は明らかになっていた時期ですが、まだ画質面ではフィルムのほうが優れているといわれていました。

そのようなときにデジタルを積極的に使うことは、「快速列車に乗る」ようなもので、出発は出遅れてもいずれ間違いなく追い越すことを見込んでのことである、という指摘にも説得力があります。

デジタル化によって、ようやく撮影から最終作品の出力まで個人が手がけることとが可能になり、いままでの撮影と現像(DPE)の分業体制という特殊な作品制作形態が変化したという分析も、興味深く読めました。

No.101「人生を考えるヒント」

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木原 武一 (著)「人生を考えるヒント―ニーチェの言葉から」(新潮選書)

 

「大人のための偉人伝」(No.15で紹介)の木原武一氏が、ニーチェ(1844-1900)の言葉を通じて人生を生きる智慧を語ったものです。

ニーチェの哲学は難解で、ニーチェ自身も激しい頭痛などの持病を抱えて孤独のなかに生きたというイメージがあります。

そのようなニーチェ像は、この本を読むとかなり変わると思います。

著者はニーチェの著作から70以上の箴言を引用し、あわせて他の人物の言葉も紹介しながら、人生をよりよく生きるためのヒントを探っています。

「親切な記憶 ― 人の上に立つ者は、個人のあるとあらゆる美点を心に書き留め、それ以外のことは消すという、親切な記憶を身につけるといい。自分自身についても同様でありたい。『曙光』」(記憶の持ちよう より)

「人間が復讐心から解放されること、これこそ、私にとっては最高の希望への架け橋、長い嵐のあとの虹である。『ツァラトゥストラかく語りき』」(ルサンチマン より)

「隣人を自分自身とおなじように愛するのもいいだろう。だが、何よりもまず自分自身を愛する者となれ。『ツァラトゥストラかく語りき』」(隣人愛よりも大切なこと より)

このようなニーチェの言葉が、木原氏の血の通った解釈によって生き生きと響きます。

G.M.ワインバーグ (著),木村 泉(訳)「スーパーエンジニアへの道―技術リーダーシップの人間学」 (単行本)

 

副題にあるように、技術によるリーダーシップというテーマを中心に、技術者が人間としていかに成長すべきかを語ったものです。原題は"Becoming a Technical Leader : An Organic Problem-Solving Approach"となっています。「スーパーエンジニア」という邦訳にも妙があります。

著者のG.M.ワインバーグは、本人の言葉を借りれば、商用コンピュータの黎明期にIBMシステムのプログラミングの「大名人」だったそうです。

その著者の前に、高速・大容量のハードウェア、二進法さらには十六進法という「新しい教義」や新たなプログラミング言語が出現し、著者の技術的優位性を無にするような事態が訪れます。

このような「谷間を乗りこえて」、いかに成長し生き残ってきたかを自伝的に語りながら、技術者として生きる道を説いています。

著者によれば、大規模なシステム開発の「ほとんど全部が少数の傑出した技術労働者の働きに依存している」ということです。

このような技術リーダーは、旧来のアメとムチ型のリーダー像とは質的に異なるものです。

著者は、いかにすればそのような影響力を持った技術リーダーになれるのか、その秘密を明らかにしていきます。

慣れ親しんだ技術に安住するのではなく、未知の新しい技術の世界へ挑戦することの大切さや、その時感じる痛みや苦しみ、新しい世界に到達したときに感じる、新たな地平線を見いだしたような喜び、さらには技術の第一線からマネジメント領域への移行についても語られています。

各章の最後には、読者に対するいくつかの問いが提示されており、深く考えさせられます。

比喩や逆説を多用したワインバーグ独特の文章で、初めての人にはとっつきにくいかもしれませんが、技術者の人間的成長についての傑出した名著です。

No.99 「人を動かす」

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デール・カーネギー (著),山口 博(訳)「人を動かす」(単行本)

 

デール・カーネギーの著書はこれで3冊目の紹介で、「道は開ける」とともにミリオンセラーを続けている代表作です。

「人を動かす」という書名には、処世術を説くハウ・ツー本のような響きを感じますが、内容はカーネギーの他の著作と同じように、数多くの人間研究から生まれた奥深いものです。ちなみに原題は、"How to Win Friends and Influence People" です。

内容は、人を動かす三原則、人に好かれる六原則、人を説得する十二原則、人を変える九原則という構成になっており、その一部を紹介すると次のようなものです。

「人を動かす三原則」

●原則1 批判も非難もしない。苦情もいわない。

●原則2 率直で、誠実な評価を与える。

・・・

「人に好かれる六原則」

●原則1 誠実な関心を寄せる。

●原則2 笑顔で接する。

・・・

「人を説得する十二原則」

●原則1 議論に勝つ唯一の方法として議論を避ける。

●原則2 相手の意見に敬意を払い、誤りを指摘しない。

●原則3 自分の誤りをただちにこころよく認める。

・・・

「人を変える九原則」

●原則1 まずほめる。

●原則2 遠まわしに注意を与える。

●原則3 まず自分の誤りを話した後、注意を与える。

カーネギーが伝えたかったメッセージは、相手の人間性を尊重し、誠実に相対することがもっとも重要で、その姿勢が人を動かすということでしょう。

巻末には「幸福な家庭を作る七原則」が付されています。

カーネギーの他の著作とともに、座右に置いて読み返したい名著です。

No.98 「謎解き広重『江戸百』」

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原信田 実 (著)「謎解き広重『江戸百』」(集英社新書 ビジュアル版)

 

昨日に引き続き、美術の話題です。

広重(*1)は「東海道五十三次」などの作品で世界的に有名な浮世絵師です。

本書は広重の晩年、江戸末期に描かれた江戸百景について、絵に込められたメッセージを探りながら解説したものです。

江戸末期は安政の大地震(*2)やペリー来航で騒々しい世相でした。

このような時期に広重が江戸百景を手がけるようになった経緯や、幕府の検閲に神経質になりながら世相を百景に込めた意味が解き明かされます。

収録された120点の浮世絵は、新書版で小さいながらも見ごたえがあり、さすが広重と思わせるものばかりです。

著者は、浮世絵に押された検印(制作年がわかる)と構図や題材から、広重や出版元の意図を探っていきます。

そして、近景で描かれた場所を示し、遠景で話題の出来事を暗に表現するというのが共通の手法となっているという仮説を立て、秘められたメッセージを解きあかしていきます。

このように、単なる作品解説とは一線を画した内容になっており、漠然と眺めるよりも浮世絵鑑賞の楽しみが何倍にも広がります。

絵の背景にあった出来事についての実証的な解説も、興味深く読めます。

また当時の出版事情や、ジャーナリズム、広告宣伝という視点からも多くの発見があります。

(*1)歌川 広重(1797-1858)。安藤広重という名も使われていたが、これは襲名した三代目が使用したため広まったもの。

(*2)1855年11月11日(安政2年10月2日)、関東地方南部で発生した大地震。

平山 郁夫 (著)「芸術がいま地球にできること―平山郁夫対談集」(単行本)

 

日本画家の平山郁夫氏(1930-)が、さまざまな雑誌で行った対談を一冊にまとめたものです。

対談の相手は、ドナルド・キーン、梅原猛、木村尚三郎、江崎玲於奈、司馬遼太郎、渡辺淳一、加藤周一、河合隼男など、錚々たる人物18人です。

No.48 「私と20世紀のクロニクル」で紹介したドナルド・キーンをはじめ、いずれも文化・芸術に幅広い見識を有する人々を相手に、制作に対する姿勢、日本・中国・西洋の文化論、文化財の保護や日本の国際貢献などを論じています。

例えば、加藤周一とは仏教美術と西洋美術の様式に共通の歴史的発展の型について語り合い(「新しい様式が現れると鋭い宗教性が出て初期の傑作がつくられ、その後技術が発達して同時に人間化して精神性が薄れ、最後にはデカダンスになる」)、河合隼男とは強固な原理・原則のない日本文化を外国に伝えることの難しさを語る(「日本人が外国へ行くと、原理原則の上で立ち向かおうとして玉砕する。もしくは日本人だけにわかればよいという国粋主義に走る」)といったように、専門分野の異なる人々との間に、興味深い話が展開されます。

あとがきでは、「文化による平和」という理念によって日本が国際貢献することの必要性を説いており、平山氏の制作の基本理念になっていることがわかります。

ピーター・メイル (著),小梨 直 (訳)「南仏プロヴァンスの木陰から」 (河出文庫)

 

No.89で紹介したピーター・メイル「南仏プロヴァンスの12ヶ月」の続編です。

原題は"Toujours Provence"とフランス語になっており、著者がかの地に馴染んだことを示唆しています。

ピーター・メイルの作品はいまだに根強い人気があるらしく、先日立ち寄った「生活の木」(*1)の店舗でも、丁寧にパッケージされた単行本が何冊か陳列されていました。

前作がプロヴァンスに移住した1年間の新鮮な驚きを伝えていたのに対し、この作品では身の回りの出来事を、土地により深くかかわりをもった人間の目でとらえています。

トリュフにまつわる話に始まり、迷い犬が飼い犬になるまでのエピソードや、馬車に乗って出かけた誕生日祝いのピクニック、そしてもちろん料理に関わる話題が、独特のユーモアにあふれた文章で展開されています。

プロヴァンスの悪い面も認めたうえで、「毎日の暮らしが暖かなのは、陽光が満ちあふれているからばかりではない。」という感慨で締めくくられています。

(*1)ハーブ・アロマテラピーの専門店 http://www.treeoflife.co.jp/

ジョン・P・コッター, ダン・S・コーエン (著), 高遠 裕子 (訳)「ジョン・コッターの企業変革ノート」

 

本書は、組織の変革を成功に導くための考え方と、調査で蒐集した実際の逸話を元にして、変革の具体的なステップを示したものです。

冒頭で著者は、「理性に訴える分析を示されたときよりも、心に響く真実を示されたときに、人間は行動を変える。」と述べています。原題の"The Heart of Change"そのものです。

つまり、変革の核心は感情に訴えることにあるということです。

そのうえで、変革のプロセスを次の8段階に沿って、具体的に提示しています。

第一段階 危機意識を高める

第二段階 変革推進チームをつくる

第三段階 適切なビジョンを掲げる

第四段階 ビジョンを周知徹底させる

第五段階 自発的な行動を促す

第六段階 短期的な成果を実現する

第七段階 気を緩めない

第八段階 変革を根づかせる

目まぐるしく環境が変化する現代においては、あらゆる組織において、変革を避けて通ることはできません。

変革の必要性を痛感しながらも、成果が出ないと嘆いている人にとっては、大きな気づきを与えてくれる本です。

また、アドバイスしても企業はなかなか変わらないと感じているコンサルタントにとっても、必読の書といってよいでしょう。

No.94 「科学者心得帳」

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池内 了 (著)「科学者心得帳 - 科学者の三つの責任とは」

 

最近の自然科学に関する大きなニュースと言えば、京都大学の山中教授の幹細胞研究が真っ先に思い浮かびます。

近い将来の再生医療に道を開くものとして、明るい話題になっていますが、諸外国の研究チームとの熾烈な競争の実態も報じられています。

この話題でも明らかなように、現代の科学は社会とのかかわりをますます強めつつあります。

本書は現代において科学者が持つべき使命感や倫理観、研究に向かう態度、陥りがちな過ちなどについて説いたものです。

著者のいう三つの責任とは、倫理責任、説明責任、社会的責任を指しています。

また、"Publish or Perish!"といわれる論文生産競争(*1)や成果至上主義の風潮、大学の研究費が枯渇しつつある実態へ警鐘を鳴らしています。

「科学は積み上げで発展してきたし、またジグザグの道を歩んでいくものである。数多くの失敗や見当外れがあってこそ科学が真っ当に進むのであり、それを無駄と切り捨てれば科学の歩みは止まってしまうことになりかねないのだ。」(科学者の説明責任 より)

(*1)藤原正彦氏は「若き数学者のアメリカ」で、 "Publish or Perish!(論文を書け、さもなくば滅びよ)"について言及しています。アメリカの研究者は当時(1970年代)から激しい競争にさらされていたのです。

No.93 「女性に関する十二章」

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伊藤 整 (著)「女性に関する十二章」 復刊 (単行本)

 

「若き詩人の肖像」、「青春」などの作品で知られる小説家、伊藤整(1905-1969)の著した女性論です。氏は「チャタレイ夫人の恋人」の翻訳出版で起訴されたことでも有名です。

昭和28年に雑誌婦人公論に1年間連載されたものが単行本として29年に出版され、角川文庫版の初版は35年となっています。文庫版の解説によると、伊藤整の全著作のなかで一番売れたものだということです。その後平成17年に中央公論新社より復刻版が発行されています。

「結婚と幸福」、「女性の姿形」、「愛とは何か」、「家庭とは何か」など、女性の関心の高いテーマについて辛辣なユーモアを交えながら氏の考えが展開され、愛することや生きることの本質に鋭く切り込んでいきます。

「女性は、その上に生活を確実に築かれるもの、それを手がかりにして生きて行けるものを求めます。」(第二章 女性の姿形 より)

「私たちが自分の衝動から自由になる為には、私たちの情緒の働きがどういうものかを知っておくことが大切だと思います。男性の喋っていることが、彼の情緒の本質と違う飾りものであること、また自分の口にしているモットモらしい理屈が、自分の情緒の衝動と違う借りものであることを反省することが大切だと思います。」(第九章 情緒について より)

「私たち自身も、自分では愛だと信じながら、実はエゴイズムによって相手を縛りつけ相手の本当の生命を殺してしまうことがあります。」(第十二章 この世は生きるに値するか より)

女性の権利の拡大などを背景とした、戦後間もない空気が色濃く感じられる文章ですが、そのような時代性を越えて、情緒の働き、エゴと社会秩序の調和など、人間性に関する普遍的な問題について考えさせてくれる本です。

結びの言葉に、著者の考えが集約されています。

「愛が人間の全部ではなく、男女の愛や肉体は永続するものではありません。そしてそれを一度よく考えてからそれを忘れて、その日、その時の生活の楽しさを十分味わって生きることがよい、と思われます。食うこと着ることについては明日を思いわずらったほうが利口ですが、愛については明日を思いわずらうことは有害です。」(結びの言葉 より)

今回は引用ばかり多くなりましたが、ご容赦ください。

No.92 「思考の整理学」

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外山 滋比古 (著)「思考の整理学」(ちくま文庫)

 

肉体労働が動力機械に取って代わられたように、事務労働もコンピュータに置き換えられ、さらには記憶し再生するという人間の知的活動領域までもが侵食されるようになりました。

本書のテーマは、このような時代における「自分で考えること」の重要性と、考えを整理しまとめあげるための具体的な方法に関するものといってよいでしょう。

学校教育に言及した部分では、グライダーと飛行機の対比を用いて、自分で問題を見つけることの重要性を説いています。グライダーのような勉強とは、先生と教科書に引っ張られて勉強することのたとえです。自力で飛び上がることのできる飛行機とは本質的に違います。

そして、「自分で翔べない人間は、コンピューターに仕事を奪われる」結果となるとのこと。

また、着想を記録し、整理し、文章や本にまとめるまでの過程について、著者の方法論が展開されています。

著者が最初に着想を記録するのは手帳だということですが、その項目数は多い年は1万を突破したとのこと。思いついたらその場で記入するのが大切とのことですが、驚くほどの徹底ぶりです。

そして、すぐに文章にするのではなく、手帳からノートに書き写し、さらに抽象度を上げた「メタ・ノート」で整理し、長い時間をかけて考えを深めるのだそうです。このように、考えを「ねかせて、発酵させる」時間が絶対必要だということです。

優れた文章を書き、まとまった内容の本にまとめあげるには、これだけの下準備が必要なことを教えられました。

初版は1986年で、パソコンもデータベースもでてきません。

いまなら情報の整理といえばデータベース、アイデアをまとめるときはアウトライン・プロセッサといった便利な道具に飛びつきたくなりますが、その前に「思考の整理」が必要なわけです。

No.91 「財務3表一体理解法」

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國貞 克則 (著)「決算書がスラスラわかる 財務3表一体理解法」(朝日新書 44)

 

本書のカバーには、まったく新しい会計学習法と紹介されています。

その新しさとは、貸借対照表(BS)、損益計算書(PL)、キャッシュフロー計算書(CS)の財務3表が「つながっている」という会計の仕組みを理解することに着目したことです。

本書の言葉を借りれば、「残高試算表を上下に分けると、上がBSで下がPLになる」、「PLの当期純利益とBSの利益剰余金がつながっている」という構造を理解することがポイントであるということです。

一般の会計学の教科書は、損益計算書と貸借対照表の説明が中心ですが、両者のつながりや構造について、わかりやすく説明されたものは少ないかもしれません。

事例として、会社設立から始まり様々な取引について解説を進めながら、財務3表の構造を理解できるように工夫されています。

ユニークなのは、一つひとつの取引ごとに直接財務3表に記入していくやり方です。つまり、仕訳など簿記の知識を必要としないことです。

会計は苦手だという人でも、短期間で自社や他社の決算書を読む力、財務状況の本質をとらえる力を養うのに役立つ本です。

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